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陰流の開祖であり、忍びの術の開祖でもある愛洲移香斎の物語です。
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30.吉崎退去1






 吉崎御坊が夕焼けの中に浮かんで見えた。

 蓮如の一行が吉崎に帰って来たのは八月十八日の黄昏(タソガレ)時だった。吉崎は厳重に警固され、武装した門徒の数は増えていたが、不気味な程に静かだった。

 一行は大津顕証寺の順如を先頭に、蓮如は慶覚坊と慶聞坊の間に隠れるようにしながら、厳重な警固の中を通り抜けた。順如がはるばる近江からやって来た事はすぐに噂になり、門徒たちは、いよいよ、戦が始まる事を改めて確信していた。

 総門の前で、風眼坊とお雪は蓮如たちと別れた。かなりの急ぎ旅だったとみえて、さすがに、お雪は疲れた顔をしていた。

「やっと、帰って来たな」と風眼坊は我家の前に立つと言った。

 お雪は笑った。疲れた、とは言わなかった。旅の途中でも、順如の連れのお駒は、疲れた、疲れたと連発して順如を困らせていたが、お雪は一度も弱音を吐かなかった。本当に気の強い女だった。

 風眼坊も笑いかけ、二人は我家に入って行った。

 北門の所まで来て、慶覚坊は蓮崇の多屋に向かった。普通なら蓮崇は本坊にいるはずだったが、今の状況を考えて、何となく、多屋にいるような予感があった。

 慶覚坊が顔を出すと、やはり、蓮崇はいた。蓮崇は仏間で念仏を唱えていた。慶覚坊の顔を見ると溜息をついて、顔を撫で、慶覚坊に笑いかけた。何日も寝ていないような、やつれた顔付きだった。

 蓮崇を先頭にして、順如、お駒、慶聞坊の三人は北門をくぐり、坂道を登って御山に向かい、蓮如と慶覚坊は墓場の中にある古井戸から抜け穴を通って御山に戻った。

 蓮如と順如たちが庫裏にて旅支度を解いている間、蓮崇と慶覚坊は書院の対面所で待っていた。

「どんな様子じゃ」と慶覚坊は聞いた。

「今の所、一応、騒ぎは治まった」と蓮崇は言った。

「守護側はどうじゃ」

「戦の準備を始めておる。敵は、いよいよ、ここを攻める気でおる」

「なに、ここをか」

「ここだけじゃない。本泉寺、松岡寺、光教寺もじゃ」

「敵は攻撃目標を国人門徒から本願寺の一門寺院に変えたのか」

「そういう事じゃ。敵も切羽(セッパ)詰まった所まで来ておる。一気に本願寺の一族を殺す気でおる。本願寺一族がおらなくなれば、本願寺は自然消滅すると考えておるんじゃ」

「とうとう、そこまで来たか‥‥‥どうするつもりじゃ」

「上人様を初め、蓮綱殿、蓮誓殿に逃げてもらうしかない」

「蓮乗殿もじゃろう」

 蓮崇は首を振った。「蓮乗殿は瑞泉寺におられる。越中におれば、今の所、安全じゃろう。全員が引き上げてしまったら門徒たちも淋しいじゃろう。蓮乗殿には瑞泉寺におってもらった方がいいと思うんじゃが」

「そうじゃな。蓮乗殿が瑞泉寺に残っておるだけでも心強いからのう」

「さっき、松岡寺と光教寺に使いを出した。明日一番に二人共、ここに来るじゃろう」

「手回しがいいのう」と言って、慶覚坊は軽く笑った。

 蓮崇は笑い返す事もなく慶覚坊を見つめた。「のんびりしておる暇はないんじゃ。敵は二十四日に攻めて来る」

「なに、二十四日、そいつは確かか」慶覚坊は真顔になって聞き返した。

「確かじゃ。二十四日は講の前日じゃ。有力門徒たちが大勢、ここに集まる。敵は総攻撃を掛けて一気に潰すつもりじゃ」

「という事は夜襲じゃな」

「その可能性もある。湖の方から舟で攻めて来て、火を掛けるかもしれん」

「そして、逃げて来る者を陸の方で待ち受けて倒すというわけじゃな」

 蓮崇は厳しい顔で頷いた。「その前に、上人様には逃げて貰わんとならん」

「うむ、そうじゃな。そろそろ、ここを離れる潮時(シオドキ)かもしれんのう‥‥‥もしかしたら、上人様もその事に気づいて、今回、急に三河まで行ったのかもしれん」

「なんじゃと、上人様は三河まで行ったのか」今度は蓮崇が驚いて、慶覚坊に聞いた。

 慶覚坊は頷いた。「佐々木の上宮寺でやっと会えたんじゃ」

「三河か‥‥‥上人様は三河に進出なさるおつもりなのか‥‥‥」

「かもしれん。まだ、京に戻る事はできんからのう。三河にもかなりの門徒がおるから移るつもりでおるのかもしれん」

「ここと違って、三河は冬が厳しくないしのう」

「そうじゃな。上人様は、ここの冬の厳しさにはこたえておったようじゃった」

「上人様も達者でおるが、もう六十を越えておるからのう。暖かい所の方がいいじゃろう」

「そうじゃ‥‥‥ところで、おぬしはどうするつもりじゃ」

 蓮崇は力なく笑って、「わしは破門じゃ」と言った。

「他に方法はないのか」

「ない」

 慶覚坊は蓮崇の顔を見つめた。

 蓮崇は俯いたままだったが、もう覚悟を決めているようだった。

「噂を流した奴らは分かったのか」

「分からん。もう、そんな事、どうでもいいんじゃ。分かったとしても、もう、どうにもならん」

「しかし、身に覚えのない事で破門になる事もあるまい」

「身に覚えのない事でも、今、現実に門徒たちは、わしを大将として守護に立ち向かおうとしておる。大将に祭り上げられた、このわしを破門にしない限り、門徒たちを止める事はできんじゃろう」

 慶覚坊は何も言えなかった。

「いい夢を見させてもらったと思って、諦めるわ」

「これから、どうするつもりなんじゃ」

 蓮崇は首を振った。「分からん‥‥‥」

 慶覚坊は、破門を覚悟している蓮崇に向かって、何と言ったらいいのか分からなかった。

 慶覚坊は立ち上がると部屋から出て、広縁から御影堂(ゴエイドウ)の方を眺めた。

 風が心地よかった。

 もう秋だった。夕闇の中、秋の虫が鳴いていた。

「でっかい狸がおったのう」と慶覚坊は突然、言った。

「はあ?」と蓮崇は顔を上げた。

「この辺りの木を切り払った時、でっかい狸が出て来たのう」

「おう、あの狸か、確かに、でっかかったのう‥‥‥わしは熊かと思ったわ」

 この吉崎御坊を建てる前、この丘の上に大きな狸が住んでいた事をふと、慶覚坊は思い出したのだった。あれから四年余りが経っていた。

 蓮如と順如が現れたのは、半時(ハントキ、一時間)程経ってからだった。

 蓮崇は二人に、今までの事の成り行きを説明した。説明の途中で、蓮崇は自ら書いた偽の書状を蓮如に渡した。蓮如はそれを読むと順如に渡した。

「申し訳ありません。騒ぎを静めるためには、上人様の一声が、どうしても必要だったのです」蓮崇は深く頭を下げた。

「それで、騒ぎは治まったんじゃな」と蓮如は聞いた。

「はい‥‥‥申し訳ありません」

「面を上げよ。おぬしが悪いのではない。わしが勝手に留守にしたからじゃ。しかし、今度の講で発表する重大な事というのは、どういう意味じゃ」

「仕方なかったのです。門徒たちが武器を手にして騒ぎ出し、その騒ぎを静めるにはそうするしかなかったのです。もし、あの時、門徒たちに武器を捨てて守護に敵対するのをやめろ、と命じれば、かえって逆効果に成りかねなかったのです。門徒たちの中には、上人様の言う通りに武器を捨てる者もおったでしょう。しかし、飽くまでも戦うと言い張る連中も出た事でしょう。門徒たちは二つに分かれて争いを始める可能性があったのです。上人様が帰って来るまで門徒たちを静めて置くには、そう書くしかありませんでした」

「そうか‥‥‥」

「蓮崇、この書状は、そなたが書いたと言うのか」と順如が驚きながら聞いた。

 蓮崇は頷いた。

「そっくりじゃ。誰が見ても、これは親父の字じゃ。そなたに、こんな才能があったとはのう」

「申し訳ありません」と蓮崇はまた謝った。

「おぬしが謝る事はない。一体、誰が、そんな噂を流したんじゃ」と蓮如は聞いた。

「分かりません」

「門徒の誰かが、戦を始めるために、そんな噂を流したのでしょうか」と順如が言った。

「その可能性もありますが、多分、違うと思います」と蓮崇は答えた。

「と言うと、何のために流したんじゃ」

「それは‥‥‥」

「蓮崇殿を陥れるために、あんな噂を流したのだと思います」と慶覚坊が答えた。「上人様は先月、六ケ条の掟を発表なされました。掟を破る者は破門にするとおっしゃいました。そこで、蓮崇殿を破門に陥れようと、あんな噂を流したのだと思います。噂を聞けば、門徒たちが蓮崇殿を非難して、蓮崇殿は破門になると考えたに違いありません。ところが、意に反して、門徒たちは蓮崇殿に同意して武器を取りました」

「どうして、蓮崇を破門にしなければならんのじゃ」

「本願寺は大きくなりました。本願寺には地位というものはありませんが、門徒たちから見れば、蓮崇殿というのは本願寺の中でも最も偉い人だと思っております。そんな蓮崇殿を妬(ネタ)む者が現れて来ておるのです。すでに、吉崎の多屋衆たちの間にも、つまらん派閥などが出来て勢力争いが始まっておるのです」

「と言う事は、噂を流した者というのは、この吉崎におる身内なのか」

 慶覚坊も蓮崇も順如の問いに答えなかった。

「詮索はもういい」と蓮如は言った。「それよりも、これから、どうするかじゃ」

「上人様、お願いです。今月の講の前に、ここから退去して下さい」と蓮崇が言った。

「なに?」

「ここは危険です。敵が攻めて来ます。その前に退去して下さい。お願い致します」

「敵がここに攻めて来る?」

「はい。敵も必死になっております。幸千代の二の舞になる前に、本願寺を潰そうと思っております。敵は本気で上人様を殺すつもりなのです。蓮綱殿、蓮誓殿と御一緒に、この北陸の地から離れて下さい」

「わしらをここから追い出して、戦を始めるつもりなのか」

「いえ‥‥‥今すぐ、わたしを破門にして下さい」

「なに、破門じゃと?」

「はい。それしか方法がありません。戦をやめさせるには、それしか方法がないのです。わたしが破門になって、上人様が吉崎からおらなくなれば門徒たちも静まり、守護側も少しはおとなしくなると思います」

「おぬしは何も破門になるような事をしとらんじゃろう。そんな者を破門にするわけにはいかん」

「今、門徒たちは静かにしておりますが、皆、戦の準備をして、今度の講の時、上人様の口から、戦の命令が下されるのを待っておるのです。今度の講で、上人様が、武器を捨てよ、と命じたとしても、門徒たちは、黙って上人様の言う事を聞くとは思えません。わたしを破門しない限り、門徒たちは、上人様は表ではああ言っておるが、本当は裏で、わたしに戦を命じておるに違いないと勝手に解釈して蜂起するでしょう。門徒たちに戦をさせないためには、わたしを破門するしかないのです」

「破門になれば、おぬしは、ここにおられなくなるのじゃぞ」

「覚悟しております」

「家族はどうするんじゃ」

「離縁して本泉寺に送りました。家族たちに害が及ばないように、何とぞ、お願い致します」

「おぬしはどうするんじゃ」

「まだ、決めておりません。しかし、わたしは元々、貧しい農家の生まれです。本当なら、ただの門徒の一人に過ぎないでしょう。それが、上人様の側近く仕える事ができました。それだけで充分、満足しております。やるべき事は皆、やって参りました。少々早いですけど、隠居したつもりで、どこか静かな所で、ひっそりと生きて行きます」

「そうか‥‥‥」と蓮如は蓮崇をじっと見つめ、しばらくしてから頷いた。「それ程までに覚悟を決めたのなら仕方ないのう‥‥‥おぬし程の男を手放したくはなかったが、すまんのう。本願寺のために身を引いてくれ」

「はっ、色々とお世話になりました」

「それは、こっちの言う事じゃ」

「破門になっても、上人様の教えは決して忘れません」

「‥‥‥達者で暮らせよ」

 慶覚坊と順如は二人のやり取りを黙って見ていた。二人とも目頭が熱くなっていた。

 蓮崇は蓮如に深く頭を下げ、次に順如に向かって頭を下げ、そして、慶覚坊にも頭を下げると静かに部屋から出て行った。

「蓮崇が破門か‥‥‥」と順如は言った。

 順如にも一つだけ蓮崇との思い出があった。蓮崇が大津の顕証寺にいた頃、一度だけだったが一緒に盛り場に出て遊んだ事があった。

 順如は初めの頃、蓮崇の事が好きではなかった。蓮如の顔色ばかり窺って、いつも、ちょろちょろしている蓮崇が気に入らなかった。順如は蓮崇と口も利かなかったが、ある時、蓮崇の方から声を掛けて来た。順如に盛り場に連れて行ってくれと頼んで来た。順如は断ろうと思ったが、蓮崇が何か悩んでいたようだったので一緒に行く事にした。その時、何を悩んでいたのか、今もって分からないが、蓮崇は大いに酒を飲んで騒いだ。順如も酒は強いが、蓮崇も強かった。いつの間にか気が合って、二人は一晩中、飲み明かした。二人で歌を歌いながら朝帰りをして、二人揃って蓮如に怒られた。その日以来、二人の間に溝は無くなり、蓮崇はよく順如の所に来ては無駄話をしたりしていた。蓮崇と一緒に酒を飲んだのは、その時だけだったが、その時の蓮崇の馬鹿騒ぎは、七年も経った今でも昨日の事のように思い出された。

「明日の朝、蓮綱殿と蓮誓殿が、ここに来る手筈となっておるそうです」と慶覚坊は蓮如に言った。

「蓮崇が呼んだのか」

「はい」

「わしは疲れた。先に休む」蓮如はそう言うと部屋から出て行った。

「辛いでしょうね」と順如は慶覚坊に言った。

「蓮崇殿は上人様の片腕じゃったからのう」

「片腕以上でしょう。身内と言ってもいい位です」

「身内か‥‥‥かもしれんのう。上人様がここに来て、よく旅に出たのも蓮崇殿がおったから、安心して出掛けたんじゃろうのう」

「慶覚坊、蓮崇の所に行ってみないか」と順如は言った。

 慶覚坊は順如を見た。

 順如は笑って、「一緒に酒が飲みたくなった」と言った。

 慶覚坊は頷いた。「いいでしょう。行きましょう」





 月が出ていた。

 蓮崇は月を見上げながら泣いていた。拭いても拭いても涙が流れて来た。

 色んな事が思い出された。

 蓮崇は振り返って、蓮如のいる書院の方を見ると両手を合わせた。念仏を唱え、頭を下げると、涙を拭いて山門を出た。

 夜風に吹かれながら、ゆっくりと坂道を下りて行った。もうこの坂を登る事も下りる事もないだろうと思いながら、両側に並ぶ多屋を眺めながら、ゆっくりと下りて行った。

 北門をくぐると、足は自然と風眼坊の家の方へと向かった。破門となった今、蓮崇が頼れる者は風眼坊より他になかった。

 風眼坊とお雪の二人は風呂から上がって縁側で涼んでいた。

 蓮崇は無理に笑顔を作って、二人の側に行った。

「いい夜じゃな」と蓮崇は言って、風眼坊の隣に腰を掛けた。

「騒ぎは、うまく静まりそうか」と風眼坊は聞いた。

「ああ、大丈夫じゃ。何とかなりそうです」

「そうか、よかったのう」

「風眼坊殿、頼みがあるんじゃ。わしを軽海まで連れて行ってくれませんか」

「軽海? 軽海といえば守護所のある所じゃろう。敵の本拠地に何か用があるのか」

「はい。最後のお勤めです」

「最後のお勤め? 何じゃ、そりゃ」

「わしは破門になったのです」

「破門? 蓮崇殿が破門? 何を言ってるんじゃ。そんな事、あるわけないじゃろう」

「いや、本当の事です」

 蓮崇は詳しく説明した。

「蓮崇殿が破門とはのう」風眼坊はお雪と顔を見合わせてから、「これから、どうするつもりなんじゃ」と聞いた。

「まず、軽海に行って、それから、本泉寺に行って家族に別れを告げ、それから先の事は決めておりません」

「そうか‥‥‥蓮如殿もここからおらなくなるんじゃ、わしらもここを離れる事にするかのう」

「風眼坊殿もここを離れるのですか」

「蓮如殿のおらん吉崎におっても、つまらんしのう。どうじゃ、お雪、わしらも出る事にせんか」

「あたしは構いませんけど、どこに行くのです」

「播磨じゃ」

「播磨?」と蓮崇が聞いた。

「播磨にわしの伜(セガレ)がおるんじゃ。何でも赤松家の武将になったと聞くからのう。一目、会って来ようと思ってのう」

「息子さんが播磨におるんですか‥‥‥風眼坊殿、わしも一緒に連れて行ってくれませんか」

「それは構わんが‥‥‥」

「わしは、なるべく、この地から遠くに行きたい心境なんじゃ。知らない土地に行って、知らない人たちの中で静かに余生を送ろうと思っておるんじゃ」

「余生などと言うな。蓮崇殿はまだ若い。今からでも、充分、やり直しが利くわ」

「そうかもしれんが、今は無理じゃ。急に力が抜けたようで何をする気にもならん。とにかく遠くに行ってから、これからの事を考えるわ」

「まあ、そうじゃろうな。今まで本願寺のために生きて来た蓮崇殿に、急に生き方を変えろと言っても無理な事じゃ。しばらく、何も考えないで、のんびりする事じゃ」

「はい」

「ところで、最後のお勤めとは一体、何じゃ」

「実は軽海の山川三河守が、二十四日、吉崎に攻めて来るのです。それを何としてでも止めなくてはなりません」

「敵もとうとう吉崎を潰す気になったか‥‥‥しかし、敵を止める事などできるのか」

「できると思います。三河守が吉崎を攻める事に決めたのは、わしが書いた偽の書状を読んだからです。やられる前に倒せという切羽(セッパ)詰まった所まで来たからです。しかし、三河守の考えていた筋書通りに、わしが破門となって、上人様が吉崎から去って行けば、三河守は吉崎を攻める事はないでしょう。三河守は北加賀の槻橋とは違います。武力で門徒たちを押えようとはしません。なるべく、門徒たちと仲良くやる振りをしながら、門徒たちを骨抜きにしようとたくらんでおります。現に、三河守によって超勝寺の連中は骨抜きにされております。上人様とわしがおらなくなれば、三河守は超勝寺の連中を吉崎に送り込んで、門徒たちを懐柔して来るでしょう。そのためには、上人様のおらぬ吉崎を攻めて、わざわざ、門徒たちの恨みを買うような事は絶対にしないはずです」

「うむ、言えるな。そこで、そなたが三河守と会って事実を告げるというわけか」

「そのつもりです。本願寺を破門になった、わしなど殺しても意味ないから、安全だとは思いますが、一人で行くのは何となく心細いので、風眼坊殿にお願いに来たわけです」

「そうか、どうせ、わしらもここを離れる事に決めたんじゃ。蓮崇殿に付き合うわ」

「あのう‥‥‥」とお雪が言った。

「何じゃ」と風眼坊が聞いた。

「軽海だけは、あたし、行きたくはないんです‥‥‥」

「なぜじゃ‥‥‥ああ、そうか。すっかり、忘れておった。お前は富樫次郎の側室(ソクシツ)だったんじゃのう。お前の顔を知っておる奴がおらんとも限らんのう。まずいな」

「富樫次郎の側室?」と蓮崇は驚いて、聞き返した。

「蓮崇殿は知らなかったか。実は、お雪は富樫次郎の側室だったんじゃが、わしが一目惚れしてのう。一乗谷から、さらって来たんじゃよ」

「次郎の側室をさらって来た? 風眼坊殿も物騒な事を平気な顔をして言うのう。たまげたわ」

 蓮崇は急に笑い出した。

「そんなに可笑しいか」

「いや、思い切った事をするもんじゃと感心しておるんじゃ。わしも、そんな事を一度でいいからやってみたいわ‥‥‥そう言えば、一乗谷から次郎の側室が消えたと大騒ぎしておったわ。あの下手人は風眼坊殿じゃったのか‥‥‥そして、側室というのはお雪殿じゃったのか‥‥‥こいつはたまげたわ」

「しかし、困ったのう。お雪を連れて軽海には行けんのう」

「城下には入らずに、どこかで待っておってもらうしかないかのう」

「あたし、男に化けようかしら」とお雪は言った。

「男に化ける?」と風眼坊はお雪の顔を眺めた。

「うーむ。結構、似合うかも知れんのう」と蓮崇は言った。

 風眼坊は、飯道山に行った時、奈美の屋敷で見た金勝座の芝居を思い出していた。金勝座(コンゼザ)の舞姫たちが男装して踊っていたが、なかなか艶(ナマメ)かしかったのを覚えていた。お雪の男装姿を想像して、蓮崇の言う通り、結構、似合いそうだと思った。

「よし、それで行こう。お雪ではなくて、雪之介じゃ。風間雪之介じゃ」

「風間雪之介か、いい名じゃ‥‥‥ところで、どうして風間なんじゃ」

「風間というのは、わしの姓じゃ。山伏をやめたのに、いつまでも風眼坊ではおかしいんで、そろそろ、風間小太郎という本名に戻るかと最近、考えておったんじゃ」

「そうか、そう言えば、わしも本願寺を破門になって、下間蓮崇ではおかしいのう。わしも本名に戻るべきかのう」

「本名は何と言うんじゃ」

「安芸(アゲ)左衛門太郎じゃ」

「安芸左衛門太郎、ほう、随分、偉そうな名前じゃのう」

「親父の名前が安芸左衛門尉(サエモンノジョウ)といったらしい。わしは会った事もないが武士だったそうじゃ。お袋は親父の事はあまり喋らなかった。お袋は十五歳でわしを産み、わしはお袋の弟として育てられたんじゃ。随分と貧しかったが、わしが殺されなかったのは、親父の家から、わしを貰い受けるという話があったらしい。しかし、それは実現しなかった。七歳になった時、わしは本覚寺に出された。そのすぐ後、お袋がどこかに後妻に入ったと聞いた。お袋は一度だけ、本覚寺に会いに来てくれたが、それ以来、会う事はできなかった」

「そうじゃったのか‥‥‥わしはまた、下間という姓から、生れつき本願寺において、いい家柄に生まれたものと思っておった。蓮崇殿も苦労しておるんじゃのう」

「苦労なんてしてはおらんが、子供の頃の事を思えば、今の自分は信じられん位に出世した。破門となっても思い残す事はないわ」

「お母様は、今も生きてらっしゃるのでしょう」とお雪が聞いた。

 蓮崇は首を振った。「わしが上人様の側近くに仕える事となって、上人様が吉崎に進出する前、わしは用を頼まれて本覚寺に行ったんじゃ。その時、自分の姿を一目見てもらおうと、お袋を訪ねたんじゃが、すでに亡くなっておった。話を聞いたら、お袋は後妻に入って三年もしないうちに亡くなっておったそうじゃ。わしがまだ本覚寺で小僧だった頃に、すでに亡くなっておったんじゃ。わしは全然知らなかった‥‥‥」

「御免なさい。思い出させちゃって‥‥‥」

「いや、いいんじゃよ‥‥‥しかし、何で、わしはお袋の話なんかしておるんじゃ」

 風眼坊は首を振った。

「本名の話から始まったのよ」とお雪が言った。

「おお、そうじゃった。本名を名乗るかという話じゃったわ。安芸左衛門太郎殿じゃったな、いい名じゃ。それで、軽海にはいつ出掛けるんじゃ」

「できれば、明日の朝にでも」

「明日の朝か‥‥‥そいつは忙しい事じゃのう」

「まだ、わしの破門は公表されておりませんが、多屋衆たちがその事を知ったら、また、騒ぎになります。わしがここから消えれば、騒ぎも起きなくて済むでしょう。なるべく早く、ここから離れたいのです」

「成程。蓮崇殿に敵対しておる奴らは、それ見ろ、と蓮崇殿の多屋に押しかけて来る事になるのう」

「はい。その通りです」

「そうか‥‥‥明日の朝、出掛ける事になったが、お前、大丈夫か」と風眼坊はお雪に聞いた。

 お雪は笑って頷いた。

「そうと決まれば、今晩は吉崎、最後の夜となるわけじゃ。酒でも飲まずにはおられまい。お雪、用意を頼む」

 お雪は頷いて台所の方に行った。

「蓮崇殿も辛いじゃろうが、蓮如殿はもっと辛かった事じゃろうのう。まあ、上がってくれ」

 二人が囲炉裏のある部屋に向かおうとした時、慶覚坊と順如が訪ねて来た。

「やっぱり、ここにおったのう」と慶覚坊は言いながら上がって来た。

「順如殿が蓮崇殿と酒を飲みたいと言ってのう。今、多屋の方に行ったんじゃが、まだ、帰っておらんと言う。それで、ここに来てみたんじゃが、やはり、ここにおったか」

「丁度いい。今から始める所じゃ」と風眼坊は二人を迎え入れた。

「蓮崇殿、悪いと思ったが、そなたの多屋から酒を貰って来た」と慶覚坊はとっくりを見せた。

「いいんじゃよ。足らなくなったら、わしも取りに行くつもりだったんじゃ」

 囲炉裏を囲んで、ささやかな宴会が始まった。

 誰も蓮崇の破門の事には触れなかった。それぞれが蓮崇との思い出を蓮崇と語った。

 風眼坊とお雪は、二人の知らない蓮崇の話を聞いていた。

 しばらくして、慶聞坊が酒をぶら下げてやって来た。蓮如を送って行った後、着替えるために、一度、自分の多屋に帰った慶聞坊は御山に登り、蓮崇の破門の事を聞いた。そして、自分の多屋に帰ったが、もしかしたら、もう二度と蓮崇に会えないかもしれないと思い、酒を持って蓮崇の多屋に行き、いなかったのでここに来たと言う。

 慶聞坊も加わり、蓮崇、風眼坊、お雪に取って、吉崎、最後の夜は賑やかになった。宴もたけなわとなった頃、また、訪問者がやって来た。

 蓮如であった。

「賑やかじゃと思ったら、みんな揃っておるのか」と言いながら蓮如は上がって来た。

「どうしたのです、もう休んだのでは」と順如が言った。

「いや、眠れなくてのう。つい、フラフラと出て来たんじゃ。わしも仲間に入れてくれ」

「親父、わしらがここにおると、どうして分かったんじゃ」

「なに、御山まで、お前の酔っ払った声が聞こえて来たんじゃよ」と蓮如は笑った。

「ほう。相変わらず、耳のいい事じゃのう」と順如も笑った。

 もう、かなりの量の酒が入っていた。

 蓮如の話から、蓮崇が蓮如に仕えるようになって七年になるが、二人が初めて会ったのは、もう二十年も前の事だと言う事を知った。蓮如は懐かしそうに、二俣の本泉寺にいた頃の若い蓮崇の事を話した。蓮崇はしきりに照れて、やめさせようとしたが、順如や慶覚坊は面白がって若い頃の蓮崇の事を聞いていた。

 夜も更け、真夜中になっていた。

 お雪は疲れたからと言って、先に休んでいた。

「達者でな」と蓮崇に言うと、蓮如はフラフラした足取りで立ち上がった。

 珍しく酔っているようだった。伜の順如が蓮如を送って行った。

 蓮如の後姿を見送りながら蓮崇は涙を浮かべていた。

 慶覚坊は慶聞坊に二人を送るように頼んだ。慶聞坊は頷いて、二人の後を追った。

 蓮崇は隠すようにして涙を拭くと、酒盃(サカヅキ)の酒を飲み干した。

「上人様はよく、夜になって、ここに来るのか」と慶覚坊が聞いた。

「いや、あんな遅くになって来たのは初めてじゃ」

「今日に限って、何でまた、遅くになって来たんじゃろう」

「蓮崇殿がここにおると思って来たんじゃないかのう」

「用があったのかのう」

「いや、蓮如殿は蓮崇殿を破門にした。破門にしてから、しばらくして、もう二度と蓮崇殿に会えないという事に気づいたんじゃろう。そして、上人様としてではなく、一人の人間として、もう一度、蓮崇殿と会って、別れを言いたかったのかもしれん」

「そうか、一人の人間としてか‥‥‥そう言えば、上人様は珍しく酔っていたようじゃのう」

「破門にしたくはないんじゃ‥‥‥」

「蓮崇殿が破門になり、上人様もおらなくなったら、この加賀は一体、どうなってしまうんじゃ。守護の思いのままになってしまうかもしれん」

「いや、大丈夫じゃよ」と風眼坊は力強く言った。「時は流れておる。時期を待つんじゃ。上人様がこの地に植え付けた教えは、そう簡単に消えはせん。上人様がどこに行こうと、門徒たちは守護に負けるような事はないじゃろう」

「風眼坊殿の言う通りです。門徒たちは負けないでしょう」と蓮崇も言った。

「そうじゃな。蓮崇殿の始めた組織作りを完璧にすれば、守護を倒す事もできるかもしれん」

「焦らず、気長に待てば、やるべき時はやって来るじゃろう」

 慶覚坊と蓮崇は帰って行った。

 風眼坊は、一年住む事もなく去る事となった我家を眺めていた。今まで、自分の家など持った事のない風眼坊にとって、我家というのはなかなかいいものだと思った。明日からまた、旅が続く事になる。お雪のためを思えば、どこかに落ち着いた方がいいのだろうが、ここを出たら、当分の間、宿無しだった。お雪には悪いが仕方ないと思いながら、風眼坊はお雪の隣にもぐり込んだ。





 次の朝早く、蓮崇の多屋に慶聞坊がやって来た。

 蓮如から頼まれたと言って、荷物を抱えていた。その荷物は、親鸞影像(シンランエイゾウ)と親鸞絵伝四幅(ヨンプク)だった。裏書(ウラガキ)の日付は八月八日になっていた。昨日のうちに書いたとしても、日付が十日もずれていた。そして、蓮崇の住所は吉崎でもなく、湯涌谷でもなく、蓮崇の生まれた越前の住所が書かれてあった。

 蓮如は昨日、蓮崇に破門を言い渡した後、居間に帰って、やっとの思いで破門状を書いた。その破門状の日付が八月の十八日だった。破門状を書いた後、本願寺のために破門となる蓮崇のために何かを贈ろうと思った。丁度、手元に河内久宝寺(カワチキュウホウジ)道場の法円に下附(カフ)するはずの親鸞影像と親鸞絵伝があった。法円には悪いが、法円のための影像と絵伝は、改めて絵師に頼む事にして、それを蓮崇に贈る事にした。そして、裏書の日付を書く時になって、破門状と同じ日付ではまずいと思い、破門状の十日前の日付にしたのだった。

 蓮崇は影像と絵伝に合掌し、そして、蓮如のいる御山に向かって合掌した。

 蓮崇は慶聞坊に、蔵の中にある物をすべて、本願寺に寄進する事を告げ、蔵の鍵を渡した。慶聞坊が鍵を持って蔵の方に行くと、蓮崇は多屋で働いていた者たちの中の何人かを集め、急用ができて出掛けなければならなくなった。もしかしたら、今度の講までに帰れんかもしれん。その時は門徒たちの面倒をよく見てやってほしい、と告げた。破門の事は言わなかった。この者たちに言えば、あっという間に吉崎中に知れ渡ってしまう。二十五日の講までは内緒にしておきたかった。その後の彼らの事は、下間一族の長老である玄永(ゲンエイ)に任せてあった。

 蓮崇は一人でここから出て行くつもりでいたが、弥兵はいつものように蓮崇の供をするつもりで旅支度をしていた。弥兵を連れて行くかどうか迷ったが、どうせ、湯涌谷にも寄るつもりだったので、弥兵とはそこで別れればいいと思い、荷物持ちとして連れて行く事にした。

 風眼坊とお雪の二人が旅支度をしてやって来た。二人共、武士のなりをしていた。二人の姿を見て、皆、目を円くした。皆、風眼坊の侍姿を見るのは初めてだったし、それ以上に驚いたのは、お雪の若武者姿だった。

「どうしたんじゃ、その格好は」と慶覚坊は呆れた顔をして聞いた。

「どうじゃ、なかなかなもんじゃろう」

「まあ、おぬしは構わんが、お雪殿までが、何じゃ、その格好は」

「わけがあるんじゃ、わけが。お雪の侍姿もなかなかいいもんじゃろ」

「何を考えておるんだか、いい年をして、ふざけてやがる」

「わしらもここを去る事となった。慶覚坊、世話になったな。落ち着き先が決まったら知らせるわ。達者でな」

「ああ。蓮崇殿を頼むぞ」

「分かっておる」

「お雪殿。馬鹿な奴じゃが面倒を見てやってくれ」と慶覚坊はお雪に言った。

 お雪は笑いながら頷いた。

「おお、そうじゃ。忘れる所じゃった。途中、飯道山に寄って行くつもりじゃ。伜に言伝(コトヅテ)があったら伝えてやるぞ」

「飯道山に寄って行くのか、そうじゃのう。別にないが、帰って来る時は強そうな奴を何人か引き連れて来い、と伝えてくれ」

「うむ。分かった。負けるなよ」

「ああ」

 一行は大聖寺川の船着場に向かった。夕べ、蓮崇の多屋に泊まった慶覚坊と影像を持って来た慶聞坊の見送りを受けながら、蓮崇、弥兵、風眼坊、お雪の四人を乗せた小舟は大聖寺川をさかのぼり、軽海の守護所に向かって旅立って行った。

 蓮崇は吉崎の御山が見えなくなるまで、ずっと両手を合わせながら眺めていた。

 蓮崇たちが吉崎を去るのと入れ違いに、松岡寺蓮綱と光教寺蓮誓が揃ってやって来た。

 吉崎の多屋衆たちは二人を見ながら噂していた。昨日、大津の順如殿が来て、今日は蓮綱殿と蓮誓殿が来た。いよいよ、上人様は決断なされた。戦も間近いぞと、ひそひそと話し合っていた。

 蓮綱と蓮誓の二人は書院ではなく、庫裏の客間の一室に通された。

 客間には二人の兄の順如がいた。二人が順如に会うのは久し振りだった。三人は懐かしそうに、お互いの事を話し合った。

 しばらくして、慶覚坊と慶聞坊が現れた。

「蓮崇はどうした」と蓮綱は何気なく聞いた。

 慶覚坊と慶聞坊は顔を見合わせるだけで答えなかった。

「もしや?」と蓮綱は言った。

 慶覚坊と慶聞坊は同時に頷いた。

「いつじゃ」

「昨日」と慶覚坊は言った。

「まだ、吉崎にはおるんじゃろ」

「つい今し方、船で本泉寺に向かいました」と慶聞坊が言った。

「そうか‥‥‥蓮崇はしばらく、本泉寺におる事になったのか」

 慶聞坊は首を振った。「本泉寺には蓮崇殿の家族がおります。別れを告げたら、どこかに行くつもりでしょう」

「どこに行くんじゃ」

「分かりません」

「蓮崇の馬鹿者めが‥‥‥わしに一言も告げんで、いなくなりおって‥‥‥」

 蓮綱は目を押えていた。

 蓮誓は、そんな兄を珍しい物でも見るかのように眺めていた。

 蓮如が現れた。

 蓮如は蓮綱と蓮誓の前に坐り込むと、二人の顔を眺めた。

「蓮綱、どうかしたのか」と蓮如は目を押えたままの蓮綱に聞いた。

「いえ、何でもありません」

「そうか‥‥‥お前たちも、今の加賀の状況は充分に知っておる事と思う。門徒たちは戦の準備を始めておるらしいが、絶対に戦をさせるわけにはいかん‥‥‥蓮崇は破門した。なぜ、破門になったか分かるか。蓮崇は本願寺のために、門徒たちに戦をさせないために、自ら破門となった。蓮崇の破門を無駄にしないためにも、わしはここを去る事にした。お前らも加賀から去るのじゃ」

「わしらもですか」と蓮綱は言った。

「そうじゃ。お前らが残れば、第二の蓮崇に成りかねん。戦を望んでおる門徒たちに、大将として祭り上げられる事になるじゃろう。もし、そんな事になったら、たとえ、子供であろうとも破門しなければなるまい」

「分かりました‥‥‥いつ、ここを去るのです」と蓮綱が聞いた。

「早い方がいい。お前らも何かと準備があろう。勿論、お前らの家族もここから去る事となる。わしは明日の夜中にここを出る。お前らも早いうちに加賀から出て、とりあえずは、大津の顕証寺に行ってくれ。遅くとも二十四日までには絶対に加賀から離れろ」

「今月の吉崎の講はどうするのですか」と蓮誓が聞いた。

「講の事は、本覚寺の蓮光に任せる。蓮光をここの留守職(ルスシキ)を頼むつもりじゃ。その講の時、わしらの吉崎退去と蓮崇の破門を公表してもらうつもりじゃ」

「本泉寺の兄貴は残るのですか」と蓮綱は聞いた。

「いや、蓮乗には瑞泉寺にいてもらう。本泉寺に行く事を禁止するつもりじゃ」

「そうですか‥‥‥」

「どうじゃ、わしのやり方に賛成してくれるか」と蓮如は二人の顔を窺った。

「仕方ありません。父上がここを出るというのなら、俺も出ます」と蓮誓は言った。

「蓮綱はどうじゃ」

「わしは、ここが好きじゃ。しかし、まだ、一ケ所に落ち着く年じゃない。そろそろ、新しい土地に移るのも悪くない」

「そうか、分かってくれたか。すまんのう。蓮誓は慶覚坊と、蓮綱は慶聞坊と一緒に、今から帰って準備に掛かってくれ。できれば、執事だけに訳を話し、他の者たちには内緒に事を運んでもらいたい」

「夜逃げですね」と蓮誓は言った。

「知られると、また、門徒たちが騒ぎ出すからのう」

「夜逃げか、面白い」と蓮綱は笑った。「誰にも分からないように、夜中にこっそり抜け出すか」

 蓮綱と蓮誓は、慶覚坊、慶聞坊を連れて帰って行った。

 蓮如は妻の如勝に訳を話して、ここを出る準備をさせた。

 蓮如一人が出て行くのならわけなかったが、吉崎には幼い蓮如の子供たちが五人もいた。引っ越しするのも大騒ぎだった。蓮如の執事の頼善の子供たちが何かと手伝ってくれた。

 次の日、本覚寺の蓮光が呼ばれて、吉崎にやって来た。蓮光も勿論、蓮崇が書いた偽の書状を本物と思い、戦の準備を始めていた。今回、呼ばれたのは、その戦に関する作戦の打ち合わせだと思い込んで張り切ってやって来た。

 対面所において蓮如と二人きりで会い、事の真相を聞かされて、驚くと同時に信じられなかった。まず、蓮崇が破門になったという事が信じられないし、蓮如がここから去るなんていう事は考えてもみない事だった。

 蓮光は、蓮如から吉崎御坊の留守職を頼まれたが、頭の中が混乱していた、何と答えたらいいのか分からなかった。

 蓮光は初め、蓮崇の噂を耳にした時、そんな事はあるまいと信じなかった。しかし、蓮如の書状を見て、とうとう、蓮如も戦の決心をしたのだと思った。

 本覚寺は、本願寺三代目の覚如(カクニョ)の弟子、信性(シンショウ)が創立した古くからの本願寺の寺院だった。九頭竜(クズリュウ)川流域に数多くの門徒を持つ有力寺院だった。蓮如が吉崎に進出するのに、骨を折ってくれたのが本覚寺の蓮光で、蓮如は北陸の門徒たちの中でも、蓮光を一番、信頼していた。蓮光は蓮如が争い事を好まない事は充分に知っていた。しかし、蓮光は越前において朝倉弾正左衛門尉孝景という武将を身近に見て来ていた。朝倉弾正左衛門尉が守護である斯波(シバ)氏の被官(ヒカン)の身でありながら斯波氏と戦い、実力を持って守護の地位に就いたのを間近に見て来た。

 去年、本願寺が戦をして、加賀の守護だった富樫幸千代を滅ぼした。その時以来、蓮光は、蓮如が朝倉弾正左衛門尉と同じ道を歩み、加賀の守護になるのではないか、と心の片隅で思っていた。ところが、戦が終わると、蓮如はそんな事をおくびにも出さなかった。守護の命には服せ、との掟まで書いていた。上人様は朝倉とは違う。もう二度と戦を命じる事はあるまい。変な勘ぐりをした自分が間違っていたと確信した。

 蓮光も、北加賀で、富樫によって寺院が焼かれたとの噂は聞いていた。蓮如は動かなかった。超勝寺の連中が北加賀に行って、何やらしている事も知っていた。弟の長光坊が、もう一度、北加賀に行こうとしたが引き留めた。去年の戦が終わってから超勝寺の一派が何かと威張り出し、蓮崇に反発して行った。吉崎は完全に超勝寺派と蓮崇派に分かれていた。

 本覚寺は超勝寺と同じ越前にあったが蓮崇派だった。蓮崇派だったため、木目谷が襲われた最初の北加賀の戦の時は、兵を引き連れて出掛けて行った長光坊も、その後、北加賀の事に首を突っ込まなかった。そんな時、蓮崇の噂を聞き、蓮如の書状を読んだ。蓮如も、とうとう本音を出したな、と思った。蓮如がやる気なら超勝寺の奴らに負けるものか、と長光坊を中心に戦の準備を着々と始めた。もう、すっかり準備が整い、いつ、命令が下されてもいい状況となった時、蓮光は吉崎に呼ばれた。蓮光は自分が蓮崇派だから、蓮崇から内密に作戦を聞かされるものと思って、勇んでやって来た。

 対面所に通され、まず、蓮崇が出て来るものと待っていたが、蓮崇は現れず、蓮如が一人で来て、意外な事を聞かされる事となった。

 蓮崇が破門されたと聞き、まず、思ったのは、蓮崇派だった自分も何か罰が下されるのかと心配した。ところが、蓮如は、吉崎御坊の留守職を務めてくれと言う。留守職と言われてもピンと来なかった。蓮如の説明を黙って聞いているうちに、留守職というのが、北陸の地において、蓮如の代理を務める事だという事がだんだんと理解できた。

 蓮如、蓮綱、蓮誓は北陸から去ると言う。蓮乗は北陸からは去らないが、加賀から出て、越中に行くと言う。蓮崇は破門されて、すでに、いない。という事は、留守職に就けば、自分が北陸門徒の中心になるという事だった。信じられない事が起ころうとしていた。超勝寺は蓮如と血のつながりのある一門寺院だった。その超勝寺を差し置いて、自分が、吉崎の留守職になるとは考えられなかった。その疑問を蓮光は蓮如に聞いてみた。

「分かっておる」と蓮如は言った。「わしがおらんようになれば、当然、留守職となるのは超勝寺の一族じゃろう。しかし、超勝寺の巧遵は隠居し、跡を継いだ蓮超はまだ十一歳じゃ。巧遵の兄弟の浄徳寺の慶恵、善福寺の順慶の二人は、今回の北加賀での騒ぎの張本人ともいえる奴らじゃ。そんな奴らに吉崎を任せる事はできん。わしがおらんようになれば、邪魔者がいなくなったと言って、すぐにでも戦を始めるじゃろう。蓮崇が破門になったのも、わしらがここを去るのも、門徒たちに戦をさせんためじゃ。絶対に戦をさせてはならん。その事だけは、必ず守ってくれ。いいな」

「はい‥‥‥しかし、わたしに、そんな事ができるか自信がありません」

「大丈夫じゃ。今度の二十五日の講には、各地から有力門徒らが大勢集まる事じゃろう。そなたは、その席において重大発表を行なう。その重大発表とは、蓮崇の破門とわしの吉崎退去じゃ。蓮崇が破門された理由は、わしに事実を告げず、門徒たちを扇動して、戦をさせようとしたためじゃ。そして、わしの筆跡を真似て、偽の書状まで書いて門徒たちを惑わしたためじゃ」

「偽の書状?」

「そうじゃ。この前、ばらまかれた書状じゃ。蓮崇は、わしをここに閉じ込め、あんな書状を書いてばらまいたのじゃ」

「蓮崇殿が上人様を閉じ込めた?」

「そうじゃ。いいか。戦を扇動した蓮崇は破門した。たとえ、北陸の地を離れても、蓮崇と同じ事をしようとたくらむ者は破門にする。そう言い渡すのじゃ」

「‥‥‥かしこまりました」

「頼んだぞ」

「はい‥‥‥ところで、上人様は、いつ、ここを去られるのですか」

「今日の夜中じゃ。正確に言えば、明日の夜明け前じゃ。わしが、ここからいなくなった事は、二十五日まで内緒にしておいてくれ。また、門徒たちが騒ぐからのう。そなたは二十五日まで、ずっと、ここから出ないでもらいたい。ただ一つ問題がある。軽海の守護所の動きが気になる。大勢の門徒たちが集まっている二十四日に、山川三河守が攻めて来るとの噂もある。一応、手を打ってはあるが、もし、攻めて来た場合は、わしが逃げたという事を三河守に告げて貰いたい。絶対に戦ってはならんぞ」

「もし、上人様がいない事を告げても、敵が攻めて来た場合はどうします」

「留守職である、そなたの判断に任せる。なるべく、犠牲者を出さないようにしてもらいたい」

「かしこまりました」

「そなたには、ここに来るまで色々と世話になり、出て行く時も世話を掛ける事となったのう。すまんが、よろしく頼むわ。後の事は執事の玄永から聞いてくれ」

 そう言うと蓮如は部屋から出て行った。

 蓮光は、蓮如の後ろ姿に深く頭を下げた。





 吉崎を後にして、大聖寺川をさかのぼった蓮崇一行は、菅生(スゴウ)の石部(イソベ)神社で上陸し、陸路、軽海に向かった。

 軽海の城下に入ったのは七つ(午後四時)前だった。一行は守護所の近くの旅籠屋に部屋を取って、お雪と弥兵を残し、さっそく、山川三河守に会いに出掛けた。

 守護所の警備は厳重だった。すでに、戦が始まっているかのように、武装した兵がうようよしている。皆、殺気立って走り回っていた。

「こいつは、三河守に会うのは難しそうじゃのう」と風眼坊はそれとなく回りを観察しながら言った。

 蓮崇も侍のなりをしていた。敵地に乗り込むのに本願寺の坊主の格好では、三河守に会う前に捕まりかねなかった。石部神社の門前町で、古着と刀を捜して着替えていた。坊主頭はどうにもならないが、入道頭の武士は何人もいる。まあ、何とかなりそうだった。

「どうしたらいいかのう」蓮崇はあちこちでたむろしている武装兵を眺めながら言った。

「三河守は、当然、そなたが本願寺の大将だと思っておる。という事は、ここにおる連中は皆、そう思っておるじゃろう。もし、そなたの正体がばれたら殺される事も充分に考えられるのう」

「風眼坊殿、脅かさんでくれ」

「正門から堂々と入るか、忍び込むかじゃな」

「忍び込む?」

「まあ、無理じゃな。捕まってしまったら三河守に会う前に首を斬られるかもしれん」

「どうしたら、いいんです」

「覚悟を決めて、正門から突撃するかのう」

「正門からですか‥‥‥三河守の屋敷は東門から入るとすぐなんですが」

「東門? どこじゃ」

「そこの土塁に沿って右に曲がった所にあります」

「そうか、とりあえず、そこに行ってみるか」

 守護所を囲む土塁の隅に見張り櫓(ヤグラ)があり、下を通る者たちを見張っていた。

 風眼坊と蓮崇は高い土塁に沿って東門の方に向かった。大勢の人足たちが土塁と空濠の修繕に励んでいた。

 風眼坊は、無駄な事をしているなと思いながら眺めていた。

 いくら深い濠を掘って、高い土塁を積み上げたとしても、数万の門徒たちに攻められたら、平地にあるこんな守護所など一溜まりもなかった。この乱世の時期に、こんな平地に守護所があるのも不思議な事だったが、今まで、加賀の国では守護所を攻めて来る者などいなかったのに違いない。去年の本願寺の戦以前は、古いやり方のまま戦をしていたのだろう。城を攻める事はあまりなく、野戦を中心とした戦だったに違いなかった。今までは、こんな守りでも充分に通用したが、これから先、生き延びて行くためには、一乗谷の朝倉のように、山の上に城を構えなくては無理だろうと風眼坊は思った。

 守護所の一画にある山川三河守の屋敷の門の前には、二人の兵が槍を突いて左右に立っていた。

「行くぞ」と風眼坊は蓮崇に小声で声を掛けると、さっさと門の方に向かって行った。

 ちょっと待ってくれ、と蓮崇は言おうとしたが、風眼坊は真っすぐに門に向かっていた。

 蓮崇も覚悟を決めて、風眼坊の後を追った。

 風眼坊は門の前に立ち、二人の門番を交互に睨むと、頷いて、「よろしい」と言った。

「何じゃと。何者じゃ」

「三河守殿は御在宅か」と風眼坊は高飛車に言った。

「何者じゃ、名を名乗れ!」左側の若侍が槍を構えた。

「本折(モトオリ)越前守の家臣、風間小太郎じゃ。内密の命で三河守に会いたい。至急を要する事じゃ」

「はっ、少々お待ち下さい」と右側の年配の男が言った。

「いや、案内はいい。しっかりと門を守っておれ。左衛門尉殿、参ろう」

 貫禄負けであった。

 侍姿の風眼坊は堂々としていて、どう見ても一角(ヒトカド)の武将だった。門番の二人は風眼坊の気迫に負け、さらに、本折越前守の名を出されたので、すっかり、風眼坊の言う事を信用してしまった。風眼坊の後から来る蓮崇も、門番たちを睨みながら偉そうにして門をくぐった。

 門の脇に小屋があり、五、六人の兵が詰めていたが、風眼坊たちをチラッと見ただけで、無駄話に熱中していた。

 風眼坊は中門廊(ナカモンロウ)の脇から、まるで、我家に帰って来たかのごとく、さっさと屋敷の中に入り込んで行った。蓮崇も風眼坊に従った。

「三河守殿おるか」と風眼坊は声を掛けた。

 すぐ側の部屋から、老武士が現れた。老武士は風眼坊と蓮崇の二人を見ながら、「どなたですかな」と静かな声で言った。

「本折越前守、家臣、風間小太郎と安芸(アゲ)左衛門尉。殿より内密の命を受けて参上した。至急を要す。すぐに三河守殿に伝えてくれ。書院の方で待っておる」

 そう言うと風眼坊はさっさと書院の方に向かった。

「頼むぞ」と蓮崇は言って風眼坊の後に従った。

 書院には誰もいなかった。

 風眼坊は庭園の見える部屋に入ると、刀を腰から抜いて腰を下ろした。

「書院の場所がよく、分かりましたね」と蓮崇も刀を抜きながら聞いた。

「武家屋敷なんていうものは、どこでも似たようなもんじゃ。門をくぐって、入った途端に、すぐに分かったわ」

「成程。しかし、恐れいりました」

「なに、気合じゃ」

「気合?」

「敵の機先を制し、気合を入れて、相手を飲み込んでしまうんじゃ」

「ほう。なかなか難しいもんですな」

「たとえばのう、山の中で熊と出会った時の呼吸じゃ」

「熊ですか‥‥‥わしにはよく分からんのう」

「さて、これからじゃ。三河守がうまく来てくれればいいがのう」

「ここまで来れば、大丈夫でしょう」

 庭園の後ろを通って門番の一人が守護所に向かうのが見えた。

「三河守は、どうやら守護所の方らしい」と蓮崇は言った。

「軍議に忙しいのじゃろう」

 三河守は半時程して現れた。庭園の後ろを通って来る姿が見えた。予想に反して一人だった。

 風眼坊と蓮崇は坐り直して、三河守を迎えた。

 三河守は急ぎ足で廊下を歩いて来て、部屋の入り口に立ち止まると二人を眺めた。一瞬、不審そうな顔をしたが、気を取り直して入って来た。

「三河守殿、そなたに、是非、会わせたいお人がおります」と風眼坊は言った。

「殿からの内密の命で、いらしたとか‥‥‥」と三河守は二人の前に坐った。

「三河守殿、お久し振りです」と蓮崇は頭を下げた。

 三河守は初め分からなかったようだったが、やがて、口を開けると、「蓮崇殿か‥‥‥」と呟(ツブヤ)いた。

蓮崇は頷いた。「三河守殿に是非とも聞いていただきたい話がございまして、こうして訪ねて参りました」

「蓮崇殿‥‥‥まさか、そなたが、ここにおるとはのう‥‥‥信じられん事じゃ」

「三河守殿、結論から言います。わたしは本願寺を破門になりました。そして、上人様は近いうちに吉崎から去ります」

「なに、そなたが破門になった?‥‥‥嘘を言うな。本願寺の門徒たちは皆、戦の準備を始めておるではないか。しかも、蓮如殿が二十五日の講の席で重大発表をするとの書状も出回っておる」

「門徒たちに戦をさせないために、わたしは破門になりました。そして、講の席での重大発表というのは、わたしの破門の事と上人様が吉崎を出て行ったという事です」

「信じられん‥‥‥戦をやめさせるために、そなたが破門になったと申すのか」

「はい。あれだけ噂が広まってしまえば、わたしが破門にならない限り、騒ぎは治まりません」

「うむ、しかし‥‥‥そなたが破門か‥‥‥そして、蓮如殿は吉崎を去るのか‥‥‥」

「皆、三河守殿の思い通りとなったわけです」

「わしの思い通りに?」

「例の噂を流したのは三河守殿でしょう」

「いや、わしは知らん」

「もう、済んだ事です。ただ、三河守殿にお願いしたい事がございます」

「何じゃ」

「本願寺が戦をやめたら、三河守殿も門徒たちの攻撃を中止してほしいのですが」

「‥‥‥よかろう。そなたの言う事が事実で、本願寺が戦をやめれば、わしらもやめるであろう」

「本当ですね」

「ああ。そなたの破門を無駄にはせん」

「その事を約束していただければ、門徒としての、わたしの最後の仕事は終わりです。有り難うございます」

「最後の仕事か‥‥‥蓮崇殿、これから、どうするつもりなのじゃ」

「まだ、決めてはおりませんが、しばらくは、この地を離れて考えます」

「そうか‥‥‥蓮崇殿もおらなくなるか‥‥‥」

「三河守殿、後の事はお願いします‥‥‥それでは、この辺で失礼致します」

「なに、もう、帰られるのか」

「はい。門徒たちは、まだ、わたしが破門になった事を知りません。なるべく早いうちに、加賀から出たいのです」

「そうか‥‥‥気を付けて行かれるがいい」

 風眼坊は軽く頭を下げると立ち上がった。

「失礼致します」と言って、蓮崇も立ち上がった。

 二人が出て行こうとした時、三河守が声を掛けた。

「蓮崇殿、戻って来たくなったら、いつでも戻って来るがいい」

「はい。分かりました」と蓮崇は答えた。

 二人は来た時と同じように、門番に威勢よく声を掛けて、さっそうと出て行った。

「うまく、行ったな」と風眼坊は言った。

「ええ。これで、戦は起こらないでしょう」

「蓮崇殿、三河守が最後に言った事が気になるんじゃが、どう言う意味じゃ」

「あれは以前、三河守が、わしに富樫家に仕官しないかと誘った事があったのです。まだ、諦めておらんのでしょう」

「成程、三河守にしてみれば、蓮崇殿が本願寺から破門となれば、味方に引き入れる事も可能じゃからのう。本願寺の内部事情に詳しい蓮崇殿を味方に付ければ、何かと都合がいいからのう。三河守もなかなか食えん男じゃな」

 風眼坊と蓮崇は旅籠屋に戻ると、お雪と弥兵を連れて軽海の城下を後にした。

 風眼坊も蓮崇も何となく嫌な予感がしていた。三河守が今更、蓮崇を捕えに来るとは思えなかったが、この城下に泊まるという気分にはならなかった。お雪も、早くここから出たいと言うし、まだ日も暮れていなかったので、一行は軽海から離れる事にした。
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