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陰流の開祖であり、忍びの術の開祖でもある愛洲移香斎の物語です。
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26.鞠子屋形1






 青空にポッカリと駿馬(シュンメ)のような形をした雲が浮かんでいる。

 春の日差しを浴びて、小太郎は縁側で薬作りに励んでいた。

 お雪は庭で洗濯物を干している。

 北川の方から時折、ウグイスの鳴き声が聞こえて来た。

 のどかな一日だった。

 今川家の内訌(ナイコウ)騒ぎから半年近くが過ぎ、駿府(スンプ)もようやく落ち着いて来ていた。小太郎の町医者も忙し過ぎる事もなく、暇という事もなく、適度な忙しさを保っている。小太郎とお雪も夫婦らしい、のんびりとした幸せな日々を送っていた。 北川殿母子は先月の半ば、ようやく鞠子(マリコ)の新屋敷に移った。正月は向こうで迎える予定だったが、去年の冬、雨の日が多くて仕事が思うようにはかどらず、完成したのは閏(ウルウ)正月になってからだった。完成するまでの間、北川殿は何度もお忍びで鞠子まで通って、早雲を困らせていた。

 鞠子の新屋敷は鞠子屋形と呼ばれた。鞠子屋形は駿府のお屋形様の屋敷と比べたら半分程の広さだったが、北川殿よりはずっと広く、濠(ホリ)と土塁(ドルイ)に囲まれて、四方には櫓(ヤグラ)も立ち、完璧な防御機能を備えていた。屋形の裏側には北川殿の望み通りの射場(イバ)も付いているし、竜王丸が武術の稽古に励む広い庭もあった。大きな廐(ウマヤ)もあり、侍女や仲居たちの離れもあり、庭の隅の方に北川殿が早雲庵と名づけた二間続きの茶屋もあった。屋形の前には、北川衆たちの屋敷が並ぶ予定だが、まだ完成していない。北川衆たちは家族を駿府に残したまま、北川殿母子を警固するため鞠子に移っていた。

 早雲は竜王丸の執事(シツジ)となり、頭は丸めたままだったが還俗(ゲンゾク)していた。元々、偽坊主だったため、正式に今川家の重臣となるのに偽坊主のままでいるわけには行かなかった。色々と調べられれば嘘を付いてもばれてしまう。後になってばれれば信頼を無くしてしまう。早雲は還俗して伊勢早雲と名乗り、鞠子屋形に詰めていた。

 富嶽もまた早雲の家来となって還俗し、大道寺(ダイドウジ)太郎という昔の名前に戻っていた。早雲の弟子となっていた才雲、孫雲の二人も山中才四郎、富沢孫三郎に戻り、秋葉山の山伏、荒川坊は荒川又四郎と名乗って早雲の家来になっていた。多米権兵衛、荒木兵庫助、在竹兵衛(アリタケヒョウエ)率いる山賊衆十三人も皆、早雲の家来となり、早雲は今、二十人の家来持ちとなっていた。家来はいるが、正式な屋敷はまだなかった。山賊衆は相変わらず早雲庵で暮らし、村人たちのために働いている。富嶽、多米、荒木の三人は普請奉行(フシンブギョウ)となって、鞠子屋形の門前の早雲の屋敷作りに励んでいる。富沢、山中、荒川の三人は早雲の命で、鞠子、駿府、早雲庵を行ったり来たりしていた。

 早雲が還俗したため、北川殿は何としてでも、春雨と早雲を一緒にさせようと張り切っていたが、俗人に戻って、すぐに嫁を貰うのは体裁が悪いから、一年間、待ってくれと断っていた。春雨にすれば、今まで諦めていたのに、早雲と一緒になれるのなら一年位待つのは何でもなかった。一年後を楽しみに春雨は北川殿の侍女を勤めていた。

「ねえ、陽気が良くなって来たわね」と洗濯を済ませたお雪が、縁側の小太郎に声を掛けて来た。

「そうじゃのう」と小太郎も手を止めて空を見上げた。

「こんないい天気に、うちにいる手はないわね」

「そうじゃのう。今日は仕事を休みにして、どこかに行くか」

「そう来なくっちゃ」とお雪は嬉しそうに笑った。

「どこに行くかねえ」

「静かな所で、のんびりしたいわ」

「随分と年寄り臭い事を言うのう」

「だって、ここは朝から晩までうるさいんだもの」

「そう言えばそうじゃのう‥‥‥静かな所か」

「ねえ、お母さんに会いに行かない」

「お母さん?」と小太郎は不思議そうにお雪を見た。

「松恵尼様よ」とお雪は言った。

「そうか」と納得してから、「飯道山まで行くのか」と小太郎は聞いた。

「蓮崇(レンソウ)様はどうしたかしら」

「一年間、武術の修行に励んで、加賀に帰ったじゃろうな」

「強くなったかしら」

「さあ、分からんのう。まあ、自分の身位は守れる腕になったじゃろう」

「そんな腕で、裏の組織なんて作れるのかしら」

「蓮崇殿には頭があるからのう。何とかやるじゃろう」

「そうね。ねえ、今日、雨なんか降らないわよね」

「降らんじゃろ」

「じゃあ、洗濯物はこのままでいいわね。さあ、行きましょ」

 二人が向かったのは飯道山ではなく、鞠子屋形だった。引っ越しの手伝いに行ったきり、一ケ月近く行っていなかった。早雲も忙しいのか顔を出さない。久し振りに北川殿に会いに行こうと二人は出掛けた。浅間(センゲン)神社の門前町から鞠子の城下まで二里と離れていなかった。のんびり歩いても一時(イットキ、二時間)もあれば行ける距離だった。

 鞠子屋形は斎藤加賀守(カガノカミ)の城下の南側にあった。鎌倉街道から少し西に入った山の裾野の小高い丘の上に建っている。屋形と街道との間に、今、北川衆の屋敷を建てていた。早雲の屋敷も街道に面して建つ予定だった。一月前に来た時は、ただ材木が積んであるだけだったが、屋敷を囲む塀と門ができ、主要な建物の柱も立って屋根もできていた。

 庭の隅に建つ作事(サクジ)小屋の中に大道寺と荒木の二人がいた。小太郎とお雪が顔を出すと、大道寺が、「お久し振りです。早雲殿ならお屋形の方にいると思います」と言った。

「いや、別に用があって来たわけではないんじゃよ」と小太郎は言った。「天気がいいから散歩しておるというわけじゃ」

「そうでしたか」と大道寺は一緒にいるお雪に頭を下げた。

「北川殿はお元気ですか」とお雪は聞いた。

「はい。それはもう。毎日、のびのびと暮らしておられます。ただ、よく町人に扮しては城下の方に出掛けるので、早雲殿も困っておられるようです」

「ほう、町人に扮してか」と小太郎はお雪と顔を見合わせて笑った。

「北川衆も以前はお屋敷の門を守るだけでしたが、今は、隠れて北川殿をお守りしなければならず、大変のようです」

「そうじゃろうのう。早雲の屋敷はいつ完成するんじゃ」

「四月中には完成予定です」

「そうか‥‥‥おぬしたちもここに住む事になるのか」

「多分、そうなると思います」

 小太郎は大道寺が見ていた絵図面を覗いた。

「立派な屋敷になりそうじゃのう」

「はい。ただ、ちょっと変わっております」

「そうか? そうは見えんが」

「この中央の建物は遠侍(トオザムライ、侍の詰所)なんです」

「なに? 早雲の屋敷ではないのか」

「はい。早雲殿の屋敷はこっちです」と大道寺は西側の屋敷を示した。

「という事は今、作っておるのは主殿(シュデン)とその遠侍か」

「はい。それと台所です。早雲殿の屋敷は最後で構わんと言うのです。わし一人、どこでも寝られると言って聞きません」

「ふーん。それで、今、早雲はどこで寝ておるんじゃ」

「ここで寝たり、お屋形内の早雲庵で寝たりしております」

「そうか、石脇の早雲庵の方には帰らんのか」

「いえ。五日に一度位は帰っておるようです。向こうにも早雲殿の帰りを待っている者たちが常におりますから」

「じゃろうな」

 小太郎とお雪は鞠子屋形に向かった。

 屋形は五間(ケン)幅の空濠(カラボリ)と一丈(ジョウ)以上もある土塁に囲まれていた。土塁の四方には櫓(ヤグラ)が立ち、正面の右側の櫓の上に多米の姿があったが、多米は屋敷の方を見ていて、小太郎たちには気づかなかった。

「あれじゃあ、立派な櫓も役には立たんな」と小太郎は多米を見ながら言った。

「きっと、向こうに菅乃(スガノ)様がいるのよ」とお雪は笑った。

「菅乃?」

 お雪は頷いた。

 小太郎が分からないという顔で、お雪を見ていると、「多米様は菅乃様が好きなのよ」と説明した。

「多米が菅乃殿をか‥‥‥意外じゃのう。それで、菅乃殿はどうなんじゃ」

「菅乃様の方も満更(マンザラ)でもないみたい」

「そうか‥‥‥」

 正門を守っていた久保に聞くと、早雲は今、竜王丸に剣術を教えているとの事だった。

 鞠子屋形は東側にある正門をくぐると正面に主殿がある。主殿には竜王丸が家臣たちと対面する上段の間付きの広間と、北川殿が訪ねて来た客と会う座敷などがあった。主殿の前の庭は左右が塀で仕切られていて、右側には廐、遠侍、台所、侍女や仲居たちの住む屋敷があり、左側には北川殿母子の暮らす常屋敷があった。常屋敷の前は広い庭になっていて竜王丸の武術稽古場となる。その庭の隅に早雲庵と名づけられた茶屋があった。そして、屋形の裏、西側一杯に細長い射場が付いていた。

 小太郎とお雪は左側の塀の木戸を抜けて常屋敷の庭に入った。早雲が竜王丸と寅之助に剣術を教えていた。驚いた事に、北川殿と娘の美鈴も侍女の萩乃から薙刀(ナギナタ)を習っていた。

「おっ、丁度いい所に剣術の師範が来たぞ」と早雲は小太郎たちを迎えた。

「わしは、ただの町医者じゃ。いや、ここでは祈祷師(キトウシ)か」

「いや、竜王丸殿の武術指南役じゃ」

「風間様、兄上様より伺っております。是非、一度、風間様の剣術を見せて下さいませ」と北川殿が言った。「本物の剣術を見れば竜王丸の励みにもなります」

「たまには汗をかくのもいいもんじゃぞ」も早雲が言った。

「そうじゃのう」と小太郎は頷いた。「最近、体を動かしておらんからのう。久し振りに木剣でも振ってみるかのう」

 早雲が小太郎の相手をしようとしたら多米がやって来た。どうしても、小太郎の相手をしたいというので、小太郎は多米を相手に模範試合を行なった。

 多米に好きに打たせては、小太郎は様々な技を披露した。それは、当然の事ながら太郎の陰流(カゲリュウ)と似ていた。多米の打ってくる技に応じて、一瞬のうちに反撃する必殺技ばかりだった。いつの間にか、北川衆や仲居たちも集まって来て小太郎の剣術に見とれていた。

 北川殿は凄いと思うと同時に、小太郎の無駄のない動きに能の舞いを見ているような錯覚を覚えていた。踊りを専門としている春雨でさえ、小太郎の動きに見とれていた。特に、小太郎の足さばきには踊りに通じるものがあると感じていた。

 相手をしている多米は小太郎の強さがこれ程だとは思ってもいなかった。まるで、自分が子供扱いされているようだった。多米は剣術よりは槍術の方を得意としていたが、その槍術でさえ小太郎にはかなわないという事は充分過ぎる程に分かった。多米は参りましたと言って引き下がった。

 竜王丸も寅之助も目を丸くして小太郎の剣術を見つめていた。竜王丸は七歳、寅之助は八歳だったが、二人共、子供ながらに自分もあの位、強くなりたいと思っていた。

 多米が引っ込むと、今度は早雲を相手に竜王丸にも分かり易いように技の説明をした。先程は動きが早過ぎて分からなかったが、今度は皆、成程と納得しながら二人の動きを見ていた。多米を初め北川衆たちも真剣な顔をして小太郎の言う事を聞いていた。

 小太郎の説明が終わると、また、竜王丸と寅之助の剣術の稽古が始まった。多米や北川衆たちも、今、聞いた技を実際に試そうと稽古をし始め、お雪までもが木剣を手にして春雨相手に稽古を始めた。庭には池やら植木やらが何もないため、皆が稽古をするのに充分な広さを持っていた。

 小太郎もお雪も久し振りに汗をかいて、さっぱりとした気分になっていた。





 その晩、小太郎とお雪は北川殿に引き留められ、夕食を御馳走になった。

 北川殿はこちらに移ってから、また、陽気に戻っていた。北川殿は小太郎夫婦に、是非とも鞠子城下に移って来て、こちらで町医者を始めてくれと言った。斎藤加賀守に頼んで、手頃な家を捜して貰おうと乗り気だった。小太郎はもうしばらくは駿府にいて、向こうの様子を調べなければならないからと言って断った。北川殿も一応は納得してくれたが、それなら来年になったら来てくれ、それまでに、きっと家は見つけておくと言った。

 食事の後、小太郎は早雲に呼ばれ、庭に建つ早雲庵に行った。早雲庵は広い縁側に囲まれて八畳間が二つあり、部屋を囲む襖(フスマ)には富嶽(大道寺)が描いた富士山の絵が描かれてあった。奥の部屋には床の間と違い棚が付き、床の間の壁には偉い禅僧が書いた物と思われる墨蹟(ボクセキ)が、さりげなく掛けられてあった。違い棚にも高価そうな茶道具が並んでいる。

「お茶でも飲むか」と早雲は小太郎に聞いた。

「いや」と小太郎は首を振って笑った。「お茶よりは酒の方がいいのう」

「そう言うと思って用意してある」と言って、早雲は床の間に飾ってある茶壷(チャツボ)を小太郎の前に持って来た。

 一体、何をするつもりだ、と小太郎は早雲のする事を見守っていた。

 早雲は違い棚から柄杓(ヒシャク)と茶碗を二つ持って来ると茶壷の蓋(フタ)を明けた。何と、中には酒がたっぷりと入っていた。早雲は柄杓で酒をすくうと茶碗の中に入れて小太郎に渡した。

「おいおい、その茶壷、かなりの値打物じゃろうが」と小太郎は心配した。

「らしいのう。何でも『富士見』という銘(メイ)で、将軍様から戴いた物だそうじゃ」

「そんな高価な壷に酒なんか入れてもいいのか」

「いいんじゃ。引っ越しの時、どさくさに紛れて、お屋形様の蔵から、いくつも戴いて来たんじゃ」

「ほう。おぬしも細(コマ)い事をやっておるのう。この茶碗も高い物じゃないのか」

「かなり高い。曜変天目(ヨウヘンテンモク)じゃ。こんなので酒が飲めるんじゃから最高の贅沢じゃ」

「おぬしもいい加減な奴じゃのう。こんな所を珠光(ジュコウ)殿が見たら、ひっくり返るぞ」

「いや、道具というものは、使ってこそ、初めて役に立つんじゃ。飾って置くものではない。お茶道具で酒を飲もうとも、真剣に飲めば道具も喜んでくれるというものじゃ。そのへんの所は珠光殿なら分かってくれるわ」

「そういうもんかのう。それじゃあ、真剣に飲ませてもらうわ」

 小太郎は曜変天目の茶碗を眺めながら酒を一口、飲んだ。

「こいつはうまい酒じゃのう」と小太郎はしみじみと言った。

「じゃろう。銘酒じゃ」と早雲は満足そうに頷いた。

「ほう。どこの酒じゃ」

「伊豆の江川の酒じゃ」

「ほう。名前だけは聞いた事あるが飲むのは初めてじゃ」そう言って、小太郎はもう一口、口に運んだ。

 早雲も一口飲んでから、「どうしたと思う」と聞いた。

「何が」

「この酒じゃ」

「誰かが、北川殿の所に持って来たのか」

「いや。石脇に送られて来たんじゃよ。誰だと思う」

「さあのう。伊豆と言えば堀越公方(ホリゴエクボウ)か」

「まさか、堀越公方がわしに酒など贈るまい。葛山(カヅラヤマ)の奴じゃ」

「なに、奴から送られて来たのか」

「おう。わしもびっくりしたわ。酒樽(サカダル)が五つも送られて来たわ。早雲庵には呑兵衛(ノンベエ)が多いからのう。皆、大喜びじゃ」

「奴がのう‥‥‥」

「おぬしにも飲ませてくれと書いてあったわ。それに、遊びに来てくれとも書いてあった」

「そうか‥‥‥懐かしいのう。お雪を連れて行ってみるかのう」

「うむ。それもよかろう。歓迎されるじゃろう。奴の事じゃ、毎日、御馳走攻めにされるじゃろうな」

「うむ、違いない。しかし、うまい酒じゃのう」

「うまい‥‥‥ところでじゃ、町医者の方はどうじゃ」

「ぼちぼちじゃ。丁度いいという所じゃな」

「すぐにというわけではないがのう。おぬしに力になってもらいたい事があるんじゃ」

「どうした、改まって」

「今川家の内紛は一応、治まった。しかしのう、今川家が完全に一つになったわけではないんじゃ。北川殿が駿府から離れた事によって、以前のように、阿部川で二つに分かれているような感があるんじゃよ。ただ、葛山だけは竜王丸派になったようじゃがのう。福島越前守(クシマエチゼンノカミ)は曲者(クセモノ)じゃ。越前守がどうも天野氏とつながっているような節があるんじゃよ」

「ほう、まだ、天野は諦めんのか。奴は一体、何をたくらんでおるんじゃ」

「分からん」

「それで、わしに何をして欲しいんじゃ」

「蓮崇(レンソウ)殿の事を思い出したんじゃ」

「蓮崇?」

「ああ。蓮崇殿は本願寺の裏の組織を作るために、おぬしの弟子になって飯道山で修行しておるんじゃったな」

「もう、その修行も終わったとは思うがのう。どうして、ここに蓮崇の名が出て来るんじゃ」

「わしはその時、裏の組織と言われてもピンと来なかった。しかし、最近、その事がやけに気になるんじゃ。去年、蓮崇殿と会った時は、わしはただの禅僧で、今川家とは直接に関係はなかった。しかし、今は竜王丸殿の執事じゃ。竜王丸殿が成人なさるまで守らなくてはならん。そうなると、わしにも蓮崇殿の言う裏の組織というものが必要となるんじゃよ。誰が竜王丸殿の味方か敵か、誰が何を考えておるかを知らなければ、充分に竜王丸殿を守る事はできんという事が分かったんじゃ。竜王丸殿が成人なさるまで十年近くある。十年も経てば、当然、人の気持ちというものも変わる。十年後、すんなりと竜王丸殿が駿府屋形に迎えられるとは思えん。わしは回りの状況を常につかみ、十年後、竜王丸殿がすんなりと駿府屋形に迎えられるような状況にしなければならんのじゃ。それには裏の組織が必要なんじゃよ」

「わしにやれと言うのか」

「おぬししかおらんのじゃ。そういう事をやれる者が」

「わしに、おぬしの影になれと言うのか」

「そういう事になるかもしれん。蓮崇殿も言っておったが、裏で、どんなに活躍しても、それは表には出ないかもしれん」

「わしが、おぬしの影か‥‥‥わしが活躍しても、おぬしの手柄となるわけか」

「そうなるかもしれん。おぬしの性格からして裏に徹する事はできんかもしれん。昔から目立つ事が好きじゃったからのう。ただ、裏の組織を作って貰いたいんじゃ。組織が出来上がれば、おぬしは抜けても構わん」

「組織作りか‥‥‥」小太郎は酒を飲むと、殺風景な庭を眺めた。

「どうじゃ、引き受けてくれんか」と早雲は言った。「去年、おぬしはあちこちに潜入して様々な情報を仕入れてくれた。そういう事をやって貰いたいんじゃ」

「うむ‥‥‥おぬしの影か‥‥‥」

「その事はいい。組織作りだけでいいんじゃ」

「いや。面白いかもしれん。おぬしの影になるのも面白い」

「やってくれるか」

 小太郎は早雲を見つめて頷いた。「わしはのう。どうも、性格的に人の下に立つ事ができん。おぬしが竜王丸殿の執事となり、正式に家臣を持てる身分となり、わしに家来になれと言われた時、実は、おぬしの家来ならいいかもしれんと思った。しかし、わしの悪い癖で素直に頷く事はできなかった。わしは今までずっと、おぬしを見て来た。考える事もわしと似ておる。おぬしと一緒なら何かができるかもしれんと思って、ここに来たのかもしれん。このまま町医者で終わるのもいいと思っておったが、心の中では未だに、若い頃のように一旗挙げたいと思っておるんじゃ‥‥‥面白そうじゃ、その話。おぬしの影の組織を作ろうじゃないか」

「そうか、やってくれるか。すまんのう」

「なに、わしは山伏じゃ。表に立って城の主(アルジ)になる柄(ガラ)ではないわ。裏方に徹して、おぬしを一国の主にしてみせるわ」

「大きく出たな。わしを一国の主にか」

「おう。駿河は竜王丸殿がいるから、遠江(トオトウミ)のお屋形様にでもなるか」

「馬鹿な事を言うな。遠江も半分は竜王丸殿のものじゃ。やがてはすべて、竜王丸殿のものとなろう」

「そうか、じゃあ、三河(ミカワ)でも取るか」

「そんな夢みたいな事はいい。まずは竜王丸殿を立派な今川家のお屋形様にする事じゃ。それから後は、わしを一国の主にでも何でもしてくれ」

「分かっておるわ」

 早雲は小太郎の茶碗に酒を注いで、顔を上げると、「お雪殿には悪い事をしたようじゃのう」と言った。

「なに、お雪も分かってくれるさ。それよりも、裏の組織を作るとなると、飯道山から若い者を連れて来た方が良さそうじゃのう」

「飯道山?」

「ああ。太郎坊から陰の術を習った者がかなりおるじゃろう。こいつは、わしも奴から陰(カゲ)の術とやらを習った方がいいかもしれんのう」

「自分の弟子から習うのか」

「飯道山でも陰の術の師範というのは奴しかおらんからのう。人に教えるからには、奴も相当、研究しておるじゃろう」

「うむ。そうなると播磨まで行かなくてはならんのう」

「やるからには本格的にやった方がいい。組織作りもすぐにはできんじゃろう」

「まあ、そうじゃ。一年、いや、二年位、掛かっても構わん。完璧な組織を作ってくれ」

「面白くなって来たわ。久々に何やら燃えて来たようじゃ」

 小太郎はようやく、やるべき事が見つかったかのように浮き浮きしていた。はっきり言って自分で何かを始めようと思った事は初めてのような気がした。いつも行き当たりばったりのように生きて来て、四十六歳になって、ようやく、やるべき事が見つかって張り切っていた。

 小太郎は本気で目の前にいる早雲という男を国持ちの大名にしてみせると思っていた。早雲が国を治める事となれば、民衆たちの事を思い、理想の国ができるだろうと確信していた。石脇の早雲庵の回りの村人たちが早雲を慕っているように、国中の誰もが慕う殿様になってくれるだろうと思った。そうすれば、小太郎の理想とする身分差別のない国ができるかもしれない。いや、そういう国をこの手で作らなければならない。

 小太郎は伊豆の江川のうまい酒を飲みながら、残り少ない人生を早雲という男の影となって生きる決心を固めていた。





 桜が満開だった。

 まだ二月の末だったが、今年は正月が閏月で二回あったため、例年より早かった。

 去年、お屋形様の急死で恒例の浅間(センゲン)神社での花見の宴は中止となったが、今年は大々的に行なうという。去年、花見の奉行だった朝比奈天遊斎(テンユウサイ)と河合棄山(キザン、備前守)が引き続き、今年も奉行となって準備を進めていた。

 花見の宴は、今川家の被官(ヒカン)である国人たち、すべてを招待して、今川家を固めると共に、新しいお屋形様、竜王丸とその後見役に決まった小鹿(オジカ)新五郎の顔見せも兼ねていた。

 天遊斎は長老の座を降りて正式に隠居(インキョ)したはずだったが、最後の仕事だと思って、やり遂げてくれと新五郎より頼まれ断る事はできなかった。また、小鹿派の者たちだけにやらせると、新五郎だけが目立って、竜王丸の影が薄くなる可能性があると、竜王丸派の者たちからも是非、立派な花見にしてくれと頼まれていた。

 花見の宴は明日から二日間の予定で、様々な余興が組まれていた。浅間神社の境内には、あちこちに様々に飾られた舞台が作られ、各地から一流の芸人たちが集まって来ていた。招待された国人たちが大勢、駿府に集まって来たため、城下及び浅間神社の門前町の宿屋はすべて埋まっていた。道々には国人たちの供として付いて来た武装した兵たちが大勢いたが、戦のために来たわけではないので、彼らの顔も幾分、穏やかだった。それでも、喧嘩騒ぎが起きないように、御番衆(ゴバンシュウ)たち全員が城内、城下一帯の見回りに励んでいた。また、庶民たちも豪華な花見を一目、見ようと集まって来て、阿部川の河原でも、ささやかな宴会が始まっていた。河原にも庶民たち相手の芸人や商人が集まり、遊女も小屋掛けをして客を引いていた。

 北川殿は三人の子供を連れて駿府屋形内のの北川殿に戻っていた。早雲も当然、一緒だった。明日、花見の宴の始まる前に、国人たちをお屋形様の屋敷の大広間に集めて顔見せの挨拶がある。北川殿は竜王丸と一緒に上段の間に座り、国人たちの挨拶を受けなければならなかった。小太郎夫婦も昨日、北川殿に顔を出したが、何かと忙しいらしく、早雲はいなかった。重臣たちも挨拶のために出入りしていて、皆、忙しそうだったので、ほんの少しいただけで帰って来た。

 小太郎は早雲と話し合って、裏の組織を作る事を決心し、花見の宴が終わったら飯道山、そして、播磨の大河内城下まで行くつもりでいた。その件について、一時、小太郎とお雪は喧嘩をしていた。小太郎はお雪を鞠子の北川殿の所に預けて、一人で行くつもりでいたが、お雪は言う事を聞かなかった。あたしも一緒に行くといい張った。一度、言い出したらきかない事は分かっていても、小太郎は何とか納得させようと試みた。しかし、無駄に終わった。

 お雪は今まで一ケ所に長い事、住んだ事がなかった。十二歳で家族を亡くしてから、叔母の智春尼(チシュンニ)と共に仇(カタキ)討ちのためにあちこちをさすらい、小太郎と一緒に暮らし始めてからも、門徒たちを治療するために旅に明け暮れていた。駿河に来てからも、お屋形様の突然の死に遭って、北川殿を守るため、あちこちを点々とし、ようやく最近になって、門前町に落ち着いていたが、小太郎が旅に出ると聞いて、自分も旅をしたいという気持ちを押える事はできなかった。お雪は絶対に付いて行くといい張った。連れて行ってくれなければ、後を付いて行くとまで言った。結局、小太郎は負け、お雪を連れて行く事となった。町医者はしばらくの間、休む事にして、通いの患者たちに適切な処置を教え、一ケ月分の薬も配っていた。

 いつものように紙漉(ス)き屋の隠居が来て、明日から始まる花見の事を小太郎に話していた。隠居はどこから聞いて来るのか、今川家の事に詳しかった。昨日は、どこの誰々が来た。今日は誰が来たと、一々、小太郎に話してくれた。隠居の話によると、今日の昼前、葛山播磨守(カヅラヤマハリマノカミ)が酒樽を山のように持って、やって来たと言う。伊豆の江川酒に違いなかった。

 何人かの年寄りの患者をお雪に任せ、縁側で隠居と話し込んでいると、珍しく、伏見屋銭泡(ゼンポウ)が訪ねて来た。

「伏見屋殿も花見に来られたのですか」と小太郎は驚いて、銭泡を迎えた。

「お久し振りです。はい。わたしも呼ばれました」

 銭泡がいつもと違って偉そうな僧侶の格好をしているので、紙漉き屋の隠居は恐縮して帰って行った。

「備中守(ビッチュウノカミ)殿はいかがですか」と小太郎は太田備中守の事を聞いた。

「はい。関東の地も大変のようです。備中守殿が駿河に来ていた時、上杉方だった長尾四郎右衛門尉(ナガオシロウウエモンノジョウ)殿というお方が、公方(クボウ)方に寝返ったらしいのです」

「ふーん。そんな事があったのか。すると備中守殿は、その事を知っておりながら平然としておったというわけじゃな」

「はい。備中守殿がこちらに来て、すぐだったそうです。四郎右衛門尉殿は上杉方の本陣の五十子(イカッコ)を襲撃して、鉢形(ハチガタ)という所に城を築いて立て籠もったそうです。その後は目立った動きもなく、城作りに専念しておったようですが、今年の正月、また、五十子の陣を襲撃して上杉勢を追い払ったそうです。勢いに乗った四郎右衛門尉殿は、上杉氏に不満を持っている者たちに檄(ゲキ)を飛ばしました。備中守殿もようやく腰を上げる決心をしました。今頃は戦(イクサ)をしておるかもしれません」

「備中守殿が戦をしておるのか」

「はい。二、三ケ月は戦に専念すると言っておりました」

「そうか‥‥‥関東の乱も益々、激しくなるか‥‥‥」

 銭泡は今川家の内訌の治まった後、太田備中守と一緒に江戸城に帰った。まだ、備中守の茶の湯の修行が途中だったためだった。修行が終わったのは閏(ウルウ)正月の中頃だった。その後、銭泡は鈴木道胤(ドウイン)の船にて小田原に行き、大森寄栖庵(キセイアン)の小田原城に招待された。小田原城は寄栖庵の伜、式部少輔(シキブショウユウ)が守っていたが、道胤の知らせを受けて、二里ばかり北にある岩原城から寄栖庵も来ていた。小田原城に五日程、滞在した銭泡は、次に葛山播磨守の城に招待され、次には堀越公方(ホリゴエクボウ)の御所に招待された。すべて、道胤の計らいによるものだった。

 御所に滞在している時、葛山播磨守を通して花見の事を知らせて来た。花見の時、浅間神社の境内に草庵を建てて、茶の湯を披露して欲しいとの事だった。今川家に代々伝わる茶道具を使って、国人たちに茶を点(タ)ててくれとの事だった。どうやら、その事は播磨守が提案して決まったようだったが、銭泡も先代のお屋形様には世話になったので引き受ける事にした。

 二月になって駿府に着いた銭泡は、お屋形様の屋敷に滞在して花見の準備に追われた。珠光(ジュコウ)流の草庵作りの指揮をしたり、茶道具の吟味(ギンミ)をしたり、重臣たちと打ち合わせをしたりと毎日、忙しかった。ようやく準備も調い、北川殿のもとに挨拶に行ったが、客が大勢いて、誰もが明日の茶会の事を聞いて来るので煩(ワズラ)わしくなって逃げて来たのだと言う。

「ほう、伏見屋殿が茶の湯の披露ですか。それは御苦労な事ですな」と小太郎は銭泡をねぎらった。

「なかなか、いいお茶室が出来上がりました」と銭泡は満足そうに言った。

「珠光殿の考えたお茶室とはどんなものなのですか」

「四畳半のお茶室です」

「四畳半? それはまた狭い部屋ですな」

「はい。しかし、茶の湯をするには一番いい広さです。広からず、狭からずで、丁度いい広さなのです」

「そういうものかのう」小太郎は首を傾げた。

「珠光殿の考えでは、お茶室というのは俗世間と離れた特別の場です」と銭泡は言った。「その特別の場でお茶を飲むという事は、煩わしい事をすべて忘れ、心を綺麗に洗う事だそうです。お茶室は能の舞台と同じで、亭主とお客は一体となってお茶を飲むという行為に没頭するのです。亭主は充分にお客を持て成し、お客は亭主の持て成しをしっかりと受け止めなければなりません。そこには一種の緊張感が生まれます。その緊張感を高める事によって、日常では得られない茶の湯独特の世界が開けるのです。緊張感を高めるためには、四畳半の狭い部屋がいいそうです。しかも、その部屋は佗(ワ)びた草庵が最もふさわしいのです。佗びた草庵の床の間にさりげなく高価な絵を飾り、名物と呼ばれるお茶道具を置くのがいいと申します。珠光殿はよく『藁屋(ワラヤ)に名馬を繋(ツナ)ぎたるがよし』と申しておりました」

「藁屋に名馬を繋ぎたるがよしか‥‥‥成程のう。それが『佗び』というものか‥‥‥」

「はい。今回、作られたお茶室は藁屋とは呼べませんが、珠光殿の考えに成るべく近づけたつもりでおります。ただ、お茶室の隣に、名物をずらりと並べて、みんなに見せろと言うのです」

「小鹿新五郎がか」

「はい。お茶室の方は珠光流に佗びたように作っても構わんが、名物を飾る部屋は絶対に作れと命じられました」

「となると、かなり広い部屋が必要となるのではないのか」

「はい。できあがったものは、草庵というよりは書院です。書院のはずれに場違いな草庵がくっついた奇妙な建物が出来上がりました」

 銭泡は苦笑した。

「成程のう」と小太郎も苦笑いをして、「今川家の財宝を見せびらかすというわけか」と聞いた。

「そういう事です。わしも、今川家の財宝の一つとして見世物になるというわけです」

「小鹿新五郎のやりそうな事じゃな。早雲もこの事は知っておるんじゃろう」

「はい。知っておりますが、早雲殿はなるべく口出しは致しません。済まんが二日間だけ我慢してくれと言われました」

「そうか‥‥‥そのお茶室で、新五郎にお茶を点てるのか」

「いえ、新五郎殿は出ません。今回、お客となるのは国人たちばかりのようです」

「今川家にとって重要な国人衆たちというわけじゃな」

「そうらしいですね」

「まあ、頑張って下され。ところで、伏見屋殿は花見が終わったら、どうされるつもりです?」

「そうですな。そろそろ、乞食坊主に戻ろうと思っております。最近、贅沢な暮らしが続きましたからのう」

「そうか‥‥‥実はのう。わしらは来月になったら播磨まで行くんじゃが、一緒に行かんかのう」

「播磨ですか」と銭泡は聞いた。駿河から播磨まで行くとなると、かなりの距離があるとまず思い、小太郎と播磨の結び付きも分からなかった。

「播磨にわしの弟子がおってのう。成り行きで今、赤松家の武将になっておるんじゃ」と小太郎は説明した。

「赤松家の武将ですか。赤松家と言えば、わしは京にいた頃、珠光殿のお供をして、次郎殿にお会いした事がございます」

「次郎殿というのは?」と小太郎が聞いた。

「赤松家のお屋形様でございます。まだ、十二、三歳だったでしょうか。利発そうなお殿様でいらっしゃいました」

「ほう、伏見屋殿も付き合いが広いですな。赤松家のお屋形様まで御存じだったとはのう。実はそのお屋形様に姉上様がおる事が最近、分かってのう。赤松家の山伏が、その姉上様を捜したんじゃが、その姉上様というのが、何と、わしの弟子の太郎坊の嫁さんだったんじゃ。色々とあったらしいが、今は赤松家の武将として、城を持つ程の身分になっておるんじゃ。ちょっと、そいつに用があって行くんじゃが、伏見屋殿も一緒に来てくれるとありがたいんじゃがのう」

「わしに何か」

「もう、茶の湯の事はしばらく考えずに旅をしたいという気持ちは分かるが、実は、わしの弟子に茶の湯を教えて貰いたいんじゃ」

「風眼坊殿のお弟子さんにですか」

「ああ。奴は剣術の腕は一流じゃが、ただ、それだけでは武将は勤まらん。赤松家の武将ともなれば、茶の湯の事も知らなくてはならんと思うんじゃ。そうじゃ、伏見屋殿は夢庵(ムアン)殿を御存じないか」

「夢庵殿ですか、懐かしいですな。わしの兄弟子ですわ。わしが珠光殿のもとに通っておった頃、夢庵殿は珠光殿のもとに住み込んで修行しておりました」

「そうか、やはり、知っておったか。実はのう、不思議なもんで、わしの弟子の太郎坊が、その夢庵殿と知り合いでな。その縁で、わしも夢庵殿に会ったんじゃがのう。今、夢庵殿は甲賀におるんじゃ。今回の旅で、甲賀にも寄るつもりなんじゃよ」

「夢庵殿が甲賀に?」

「ああ。伏見屋殿は宗祇(ソウギ)殿を御存じですか」

「宗祇殿といえば連歌師の?」

「そうじゃ。その宗祇殿の弟子になると言って、夢庵殿は甲賀におるんじゃよ」

「夢庵殿は今度は連歌師になるのですか」

「らしいのう。どうじゃ、一緒に行かんか」

「しかし、夢庵殿を御存じでしたら、夢庵殿から茶の湯を教わっておるのでは?」

「それがのう。教わる事ができなかったらしいんじゃ。城下もまだ完成してなかったらしくてのう、城下が完成する頃に、夢庵殿は甲賀に行ってしまったらしいんじゃよ」

「そうでしたか‥‥‥播磨ですか‥‥‥」

「無理にとは言わんが、太郎坊の奴に、本物の茶の湯というものを教えてやりたいと思ってのう。去年の正月、早雲と一緒に奴の世話になったが、なかなか、いい城下だったわ」

「播磨ですか‥‥‥」

 お雪が顔を出した。

「あら、伏見屋さん、いつ、いらしたのです」

「ご無沙汰しておりました」

「伏見屋さんもお花見に?」

「はい」

「お雪、実はのう。伏見屋殿も今回の旅に誘ったんじゃよ」と小太郎がお雪に言った。

「えっ、伏見屋さんも?」

「ああ。太郎坊にの、茶の湯を教えて貰おうと思ってのう」

「そうですか。あたしはいいわよ。一緒に行きましょうよ」お雪は笑って、銭泡を誘った。

「うむ、そうじゃのう」と銭泡も笑って頷いた。「久し振りに夢庵殿にも会いたいし、ついでに、師匠にも会って来るかのう」

「珠光殿ですか」と小太郎が聞いた。

「はい」

「そうじゃのう。ついでじゃから、奈良にも行くかのう」

「五条様も甲賀にいるんでしょう」とお雪が言った。

「おう、そうじゃった。宗祇殿のもとにおるじゃろう。五条殿にも会わなくちゃあな」

 銭泡も一緒に行く事と決まった。
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