27.正明坊
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太郎たちが生野の山中で、鬼山(キノヤマ)一族の長老、左京大夫に連れられて銀の鉱脈を見ていた八月の十七日、京の浦上屋敷では美作守が、太郎の偽者を仕立てて国元に送ろうと準備に忙しかった。
国元の『噂』は、すでに、在京している赤松家の重臣たちの耳にも入っていた。
重臣たちは美作守に真相を聞きに来た。美作守は楓御料人の御主人は生きてはいるが、今、大怪我をしていて療養中だ。もう少し良くなったら、改めて紹介すると言ってごまかしてきた。阿修羅坊が太郎坊を連れて来るまで、何とか、ごまかすつもりでいた。
身分や名前も聞かれたが、本名を言うのはまずいと思い、その時、たまたま、ひらめいた名前を告げた。その名は京極次郎右衛門高秀といい、今は亡き、大膳大夫(ダイゼンノタイフ)持清の四男だった。高秀は西軍に寝返った甥の京極高清と戦って負傷し、今、美作守の手の内にあった。京極氏なら重臣たちも文句を言うまいと、その場を治めるために言った出まかせだった。また、太郎坊を京極氏として国元に送るのも悪くないなと思った。太郎坊を形だけでも、京極氏の養子として送ればいい。今の赤松家の力を持ってすれば、その位の細工は簡単にできた。
京極氏とは近江源氏の佐々木一族だった。
鎌倉時代の初期、佐々木左衛門尉(サエモンノジョウ)信綱が所領を四人の息子に分け、それぞれが大原氏、高島氏、六角氏、京極氏を名乗って独立した。やがて、大原氏と高島氏は廃れて行くが、京極氏と六角氏は残って行った。
京極氏からは南北朝時代に佐々木道誉(ドウヨ)が出て、足利尊氏の室町幕府に協力して勢力を広げた。その後も、幕府の重職に付き、赤松家と同じく四職家(シシキケ)の一つとなっている。また、道誉の娘は赤松性具(満祐)の祖父、律師則祐(リッシソクユウ)の妻となっている。
応仁の乱の時には京極氏は東軍に付き、近江の守護職を巡って、西軍に付いた同族の六角氏と争っていた。
そして、今はと言えば、京極氏も内部分裂して二つに分かれ、家督争いをしている。京極持清は東軍の将として活躍し、幕府の重要な地位にいたが、四年前に亡くなっていた。家督を継ぐはずの嫡男、中務大輔(ナカツカサノタイフ)勝秀は、それより以前、応仁二年(一四六八年)に戦の陣中に於いて病没していた。
持清が死ぬと、まだ幼い勝秀の子、孫童子丸(ソンドウシマル)に家督が認められたが、持清の次男、治部少輔政経と三男、民部少輔政光が家督を巡って争い、政経が孫童子丸の後ろ盾となると、政光は孫童子丸の弟、乙童子丸を立てて対立し、有力家臣たちも二つに分かれて争いを始めた。やがて、政光は西軍に寝返り、南近江を支配している同族の六角氏と手を結び、政経らを北近江から追い出し、近江の国は西軍の支配する国となっていた。
去年の十一月、政光が亡くなり、政経は、今が敵を倒す絶好の機会だと、北近江に進撃した。しかし、敵はしぶとく、結局、負け戦となり、大勢の犠牲者を出してしまった。
その戦に、次郎右衛門高秀も東軍の政経方として出陣して負傷し、山中に隠れていたところを美作守配下の山伏、正明坊(ショウミョウボウ)に助けられた。
美作守は正明坊からその事を聞き、京極氏の伜なら、後で何か使い道があるだろうと正明坊に助けてやれと命じた。今、次郎右衛門はどこかに匿われて療養しているはずだった。
美作守はその男、次郎右衛門を楓の亭主に仕立て、うまい具合に話をこじつけた。
楓御料人様は応仁の乱が始まってから、ずっと甲賀の尼寺に隠れていて、御主人の無事を祈っていた。今回の戦で、御主人が行方不明になり、死んだものと諦めていた。しかし、無事に生きていて、これで、御料人様も御主人共々、赤松家に迎えられ、めでたし、めでたしじゃと美作守は重臣たちの前で笑った。
美作守の話を聞いていた重臣たちも、すっかり美作守の話を信じてしまった。
御料人様の御主人というのが京極氏だったという事が、重臣たちにとって何よりも嬉しい事だった。どこの馬の骨ともわからない者が、お屋形様の兄上として赤松家に入って来ては困るが、源氏の名族の佐々木氏、しかも、赤松家と同じ四職家の京極氏なら、文句などあるはずはなかった。重臣たちも、めでたしめでたしと言いながら、以後の事を美作守に頼むと満足して帰って行った。
阿修羅坊が京に戻って来たのは十六日の昼前だった。美作守は幕府に出仕していて留守だった。阿修羅坊は急用だと使いの者を送った。一時程経って、美作守は屋敷に戻って来た。
「まったく、足軽や浪人どもが徒党を組んで暴れ回りおって、今、京の都は大騒ぎじゃ。足軽や浪人だけならまだいいが、後ろに糸を引いてる大物が隠れておる。まったく始末におえんわい」美作守はそう言いながら、阿修羅坊の待つ部屋に入って来ると部屋の中を見回した。
阿修羅坊以外は誰もいなかった。
「どうしたんじゃ、奴は」
「遅すぎたんじゃ」と阿修羅坊は首を振った。「おぬしからの使いが来た時には、すでに、決闘が終わった後だったんじゃよ」
「それで?」
「二人とも死んだ」
「二人とも?」
「ああ、二人ともじゃ」
「相打ちか」
「いや、正確に言えば、松阿弥が勝った。しかし、松阿弥も太郎坊を斬った瞬間、血を吐いて倒れ、そのまま死んでしまったんじゃ」
「そうか、死んだのか‥‥‥」
阿修羅坊は美作守に二人の遺品を見せた。
松阿弥の仕込み杖、太郎坊が使った刀、そして、太郎坊の髪の毛を見せたが、美作守はろくに見ていないようだった。さっそく、次の対策を練っているようだった。
美作守は一応、太郎坊の髪を手に取って眺め、次に、松阿弥の仕込み杖を手に取り、抜いてみようとしていたが抜けなかった。
「手入れをしなかったから、くっついちまったんじゃのう」
阿修羅坊は太郎坊の刀を取って、抜こうとした。こっちの刀もくっついていた。
「そっちもか」と美作守は言った。「太郎坊も松阿弥を斬ったのか」
「ああ、肩先をちょっとな。しかし、致命傷という程じゃない」
「そうか‥‥‥死んだか」と言いながら美作守は仕込み杖を置いた。「ところで、国元の『噂』はどんなもんじゃ」
「みんな、楓殿の御亭主が生きていたと信じ込んでおる」
「そうか‥‥‥」
「みんな、楓殿の御亭主が城下に来るのを楽しみに待っておる」
「うむ。一体、その『噂』の出所はどこなのかのう」
「太郎坊じゃよ。太郎坊が自分で『噂』を広めたんじゃ」
「やはりのう。なかなか、やるもんじゃのう。おぬしの言った通り、味方にしておけば、役に立つ奴じゃったのう‥‥‥」
「国元には何と言ったんじゃ」と阿修羅坊は聞いた。
「噂通り、楓殿の御主人は生きておるとな‥‥‥太郎坊を送り込むつもりでおったんじゃが、死んでしまったのなら仕方ないのう」
「どうするんじゃ」
「今更、死んだとも言えまい。こっちの重臣たちには、今、怪我の療養中だと言ってある」
「こっちの重臣たちも楓殿の御主人が生きているという噂を知っておるのか」
「ああ、それぞれ、国元から連絡があったらしいのう」
「太郎坊の噂も大したものよのう。京にいる重臣たちも動かしたか」
「一つの噂に国元も京も振り回されておる」
「これも、志能便の術とかいうもんかのう」
「まったく、甘く見過ぎたわ」
「これから、どうするんじゃ」と阿修羅坊は聞いた。
「どうするかのう」と美作守はニヤニヤした。
「どうやら、決まったとみえるのう」と阿修羅坊は美作守の顔色を窺いながら言った。
「ほう、どうして、わかる」
「長年、付き合っておれば、その位の事、わかるわい。どうするつもりじゃ」
「まあ、ここではなんじゃから離れに行こう」
二人は太郎坊と松阿弥の遺品を持って、離れの書院へと向かった。
書院に入ると阿修羅坊は天井を見上げた。
「この上に太郎坊が隠れておったんじゃのう」
「まったくのう。この屋敷に忍び込むとは大胆不敵な奴じゃ」
美作守は遺品を文机(フヅクエ)の上に置くと、障子を閉めて腰を降ろした。
「さっきの話じゃがのう。こっちの重臣たちには楓殿の御主人は京極大膳大夫の伜、次郎右衛門高秀で、今、怪我をしていて療養中じゃ、と言ってあるんじゃ」
「京極次郎右衛門高秀? 聞いた事もないのう。そんな奴がおるのか」と阿修羅坊も腰を降ろした。
「それがおるんじゃ。正明坊の奴がな、叡山(エイザン)の山の中で、その次郎右衛門を拾ったんじゃよ。奴は本当に怪我をしておってな、今、ある所で療養しておる。もう、かなり良くなってるはずじゃ。重臣たちに楓殿の御主人の身元を聞かれてのう。まさか、本名を言うわけにもいかんしのう。そいつの事を思い出して、そう言ってしまったんじゃ。とにかく、その時は、何とか、その場を乗り切れば後は何とかなるじゃろうと思ったんじゃ。太郎坊を、そいつの弟という事にしてもいいと思ってたんじゃよ」
「ところが、太郎坊は死んだ」と阿修羅坊は言って美作守の顔を見つめた。「その男を使うつもりなのか」
「それしか、あるまい」美作守は、もう決めたという顔で頷いた。
阿修羅坊は天井を見上げ、しばらくしてから、「いくつなんじゃ、その京極の伜は」と聞いた。
「わしも、まだ会っとらんので詳しくは知らんが、二十四、五とか言っておったかのう。太郎坊とそう大して違うまい」
「二十四、五か‥‥‥二十四、五にもなっておれば妻も子もおるじゃろう」
「まあな。とにかく、重臣どもを納得させるには奴を送り込むしかあるまい。京極氏は出雲の国(島根県東部)を持っておるしのう。山名氏を挟み打ちにするのには持って来いじゃ」
「しかし、出雲の国は今、守護代の尼子刑部少輔(アマゴギョウブショウユウ)が握っておると聞いておるぞ」
「尼子か‥‥‥力はあるらしいが、まだ、京極氏に刃向かう程の力はないじゃろう」
「まあいい。その京極の伜を国元に送るとしてじゃ。楓殿と会えば、すぐに偽者とばれてしまうぞ」
「ああ、そこなんじゃ」と美作守は厳しい顔をして阿修羅を見た。「そこの所をおぬしに頼みたいんじゃ。何とか、楓殿を説得させて欲しいんじゃよ」
「どう説得させるんじゃ」
「仮にでもいい。京極の伜と一緒になって貰いたいとな」
「何じゃと! そんな事、無理に決まっておるわ」
「楓殿は御主人が死んだ事を御存じないのか」
「知らん。楓殿も御主人が城下に入って来るのを楽しみに待っておる」
「そうか‥‥‥赤松家のために、一緒になってくれと言っても無理かのう」
「無理じゃろうのう。死んだ事もわしが知らせるのか」
「頼む」
「しかしのう。楓殿に、御主人が死んだとは、とても言えんのう」
「じゃが、他にいい方法があるか」
「しかしのう‥‥‥」阿修羅坊は腕を組んで、首を振った。
「仮にでいいんじゃ。今は国元の『噂』を静めなくてはならん。播磨の国中が『噂』の結末を見守っているんじゃ。この結末を付けなければならん。とにかく、偽者でも何でも楓殿の御主人を国元に送らなければならんのじゃ。そして、その後の披露式典まで何とか夫婦でいてくれればいい。その後は離縁しても構わん。理由は何とでも付くじゃろう」
「京極氏を離縁するのか。敵を作る事になるぞ」
「今、京極氏は二つに分裂しておる。叔父と甥で争っておる。赤松家を敵に回す暇などあまい」
「そうだといいんじゃがのう」
「どうじゃ。おぬしがうまく楓殿を説得してくれんかのう。こんな事、頼めるのはおぬししかおらんのじゃ」
「国元にはどう説明するんじゃ」
「できれば、偽者という事は隠しておきたいが無理じゃろうのう。加賀守には本当の事を言った方がいいかもしれん。その辺のところは、おぬしに任せる。ただ、城下の者たちや播磨の国人たちには絶対にばれる事があってはならん」
「わかっとる」
「これが、今回の仕事の総仕上げだと思って、すまんが頼むぞ」
阿修羅坊は美作守を見ながら、仕方がないというように頷いた。「乗り掛かった舟じゃしな、やるしかないのう」
「おお、やってくれるか。すまんのう」美作守は満足そうに笑って、ふと思い出したかのように、「ところで、例の宝の方はどうした」と聞いた。
「わからん」と阿修羅坊は首を振った。
「太郎坊にも見つけられなかったのか」
「ああ、松阿弥に殺されなかったら、今頃、見つけておったかもしれんがのう」
「そうか、じゃあ、その件も引き続き頼むぞ」
「ああ、わかった」
「とにかく、明日のうちに準備をして、あさってには国元に向かうようにしよう。まあ、おぬしは、その間、のんびりしていてくれ」
そう言うと美作守は阿修羅坊を客間に案内して、また、出掛けて行った。
阿修羅坊は客間に寝そべると美作守が言った事を考えていた。
美女たちが黄色い声を上げて騒いでいる。
鼻の下を伸ばした阿修羅坊が美女たちに囲まれて酒を飲んでいた。
浦上美作守は阿修羅坊の今までの苦労をねぎらうため、豪華な料理と上等な酒と一流の遊女を用意して、ささやかな宴を開いてくれた。美作守自身は都の治安取り締まりに行かなきゃならんと、忙しそうに出掛けて行ったが、阿修羅坊は御機嫌だった。
振り返ると色々な事があった‥‥‥
それも、もうすぐ終わる。明後日、太郎坊の偽者を置塩城下まで連れて行き、偽者と本物をすり替えればいい事だった。ただ、偽者をどうするかが問題だった。京極氏の伜が偽者になるというのは、ちょっと始末に悪い。何とか説得して戻ってもらうか、最悪の場合は、殺して山の中に埋めてしまうしかないか、と思った。
そして、太郎坊がまだ生きていた事など、まったく知らなかったと、とぼけていればいい。松阿弥に殺されたのが替玉だったとは全然知らなかった。奴が使う『志能便の術』というのは大したもんだ、このわしまで騙しおった、と言えば、何とかなるだろうと思っていた。
美作守と打ち合わせが済んだ後、阿修羅坊は後を追って来た伊助と藤吉に会って、美作守の作戦をすべて話した。藤吉は明日の朝早く播磨に帰ると言う。太郎坊に美作守の出方を報告してくれるだろう。太郎坊はただ、偽者が城下に入って来るのを待っていればいいだけだった。
太郎坊の考えでは、美作守は身代わりを城下に送るが、楓と会うと偽者だとばれてしまうので、途中で殺させるだろうと言っていた。しかし、美作守はそんな事は一言も言わなかった。偽者を城下に入れ、楓殿と会わせ、たとえ、形だけでもいいから夫婦にして披露式典に出せと言う。よく考えて見れば、お屋形様の姉君の御亭主が何者かに殺されたとあっては体裁が悪い。体裁を重んじる美作守が、そんな事をするわけがなかった。
阿修羅坊は美女たちに囲まれて、すっかり、いい気持ちになっていた。
三人の美女はどれも阿修羅坊好みの女だった。美作守が阿修羅坊の好みを心得ていて、わざわざ揃えてくれたに違いなかった。憎い事をするわ、と阿修羅坊は美作守に感謝していた。
その頃、美作守は崩れたまま放置してある相国寺の僧院の中で、瑠璃寺の山伏、正明坊と会っていた。
「どうじゃ、この間の京極の伜、次郎右衛門高秀とやらの具合は良くなったか」と美作守は正明坊に聞いた。
「はあ? どうしたんです、そんな事、急に聞いたりして」と正明坊は怪訝(ケゲン)な顔をした。
「急に、そいつを使う事に決まった」
「使う?」
「ああ、どうしても、そいつが必要なんじゃ。どうじゃ、もう傷は治ったか」
「死にましたよ」と正明坊は言った。
「なに、死んだ?」
「ええ、五日前です」
「死んだのか」と美作守はつぶやき、舌を打ってから、「傷はそんなに深かったのか」と聞いた。
「いえ、大した事ありません。治ると思っていたんですけどね、傷口から入った毒が回ったんでしょう。朝、気が付いたら冷たくなってましたよ」
「死んじまったのか」と言いながら美作守はすぐに次の対策を練っていた。
「一体、奴をどう使うつもりだったんですか」
「いや、死んじまったんなら、しょうがない。それで、死んだ事を京極氏に伝えたのか」
「それが、治部少輔殿がどこにいるのかわからんのですよ。次郎右衛門からも渡してくれと頼まれた書状もあるんですけどね」
「という事は、次郎右衛門が死んだ事は、まだ誰も知らんのじゃな」
「そういう事になりますね」
「まあいい。さて、本題に入るか」と言って美作守は正明坊に内密の仕事を頼んだ。
その仕事とは、正明坊に野武士に化けて、ある連中を襲って欲しいというものだった。ある連中とは勿論、偽太郎坊の一行だった。
阿修羅坊には、ああは言ったものの、偽者を国元に送って、うまく行くとは美作守も思ってはいなかった。『噂』の手前、太郎坊を国元に送らなければならない。しかし、送ったら偽者だとばれてしまう。事をうまく運ぶには、途中で偽者を消さなくてはならない。誰にも怪しまれずに偽者を消すには、今、京の都で暴れ回っている野武士集団に襲わせるのが最上の策だった。赤松家にとっては、やはり、楓に亭主などいない方が良かった。これで、すべてがうまく行くと美作守は思った。
それと、阿修羅坊の問題もあった。今回の仕事で、阿修羅坊は瑠璃寺の山伏を使い、犠牲者を多く出し過ぎた。その中には瑠璃寺においても重要な山伏が何人もいた。美作守の所に、瑠璃寺から責任を取ってくれと、うるさく言って来ていた。本人はまだ知らないが、阿修羅坊は瑠璃寺から破門されていた。瑠璃寺と縁の切れた阿修羅坊は美作守にとって、この先、用のない者だった。美作守は阿修羅坊も一緒に消してしまうつもりでいた。
あまり、乗り気でなかった正明坊も、阿修羅坊を消せと言った途端に態度が変わった。阿修羅坊がいなくなれば、瑠璃寺においても格が上がるし、美作守が抱えている山伏の中でも一番という事になる。今までは阿修羅坊がいたお陰で、うまい汁をみんな、阿修羅坊に吸われてしまっていた。これからは自分がうまい汁を思う存分に吸う事ができる。張り切らずにはいられなかった。
美作守は正明坊に作戦を詳しく説明した。
明後日、阿修羅坊と楓殿の御主人に扮した偽者の一行が国元に向かって旅立つ。人数は騎馬武者二十騎に徒歩(カチ)武者百人。人数は多いが烏合(ウゴウ)の衆だ。戦闘能力はまったくと言っていい程ない。
その一行は明後日の朝、京を出て、一日目は芥川(高槻)に泊まる。二日目は武庫川の辺り、三日目は有馬を過ぎた山の中となる。四日目は播磨の国に入って加古川に泊まり、五日目に置塩城下に到着する予定だ。
一行を襲うのは山城の国や摂津の国ではまずい。赤松家の武士が野武士にやられて全滅した事が噂になったらまずい。やるのは播磨の国に入って国境近くの山の中だ。
しかし、播磨の国に入ったとしても、国人たちの間にそんな噂が広まってはまずい。噂になっても、国人たちを納得させるようでなくてはならん。そこで、おぬしは騎馬隊五十騎を率いて襲い掛かれ。人の噂というのは大袈裟になるものだ。五十騎が百騎となる。百騎もの野武士集団に襲われたらしょうがないと思わせなくてはならん。
おぬしも知っている通り、今、京では髑髏(ドクロ)党とか卍(マンジ)党とか名乗る盗賊が出没しておる。おぬしらも何とか党と名付け、阿修羅坊一行をやっつけたら、そのまま、山名の領国に入って暴れ回ってもらいたい。やがて、その噂が広まれば、楓殿の御亭主殿も、あの連中にやられたのなら仕方がないと言う事になるだろう。
美作守が話し終わると正明坊はニヤニヤした。
「なかなか、面白そうですな。わしらは野武士集団になって暴れ回ればいいんですね」
「ああ、そうじゃ。しかし、山名の領国でじゃぞ」
「わかっております。その手初めに阿修羅坊を血祭りに上げるというわけですね」
「そうじゃ。気をつけて貰いたいのは、一行の中に、堀次郎がいるんじゃが、奴だけは逃がしてくれ。城下にやられた事を知らせてもらわなけりゃならんからのう」
「堀次郎だな」
「知ってるな」
「ええ、知ってます」
「どうだ、五十騎、集められるか」
「元手は出るんでしょう」
「勿論、出す。暴れ回るのはいいが絶対に捕まるなよ」
「捕まった奴は殺しますよ」
「おお、頼むぞ」
美作守は正明坊に軍資金を渡すと外に出た。
外には満月が出ていた。
誰か、偽者を見つけなけりゃならんな、と思った。どうせ、死んで貰う奴だ、誰でもいいだろう。それと、明日、国元に早馬を飛ばそうと思った。
楓殿の御亭主、京極次郎右衛門高秀殿、十八日、騎馬武者五十騎と徒歩武者二百人に守られ出立(シュッタツ)、国元に着到予定は二十二日、との書状を持たせて。
しかし、実際に送るのは、騎馬武者二十騎に徒歩武者百人だった。
この隊を率いて行くのは赤松家年寄衆の一人、堀兵庫助秀世の嫡男、堀次郎則秀と決めていた。騎馬武者二十騎は堀次郎とその家臣、徒歩武者百人は足軽を使うつもりでいた。
あとは、立派な格好をさせた偽の太郎坊と阿修羅坊で準備完了だった。
その百二十人と二人は何も知らずに、明後日、死に向かって旅立つ事になるのだった。
出立の準備は完了した。
偽太郎坊、と言うより、偽の京極次郎右衛門高秀は立派な侍大将の格好をして、立派な葦毛(アシゲ)の馬に乗っていた。見るからに、気品のある貴公子然とした若者だった。
成程、これが京極の伜か、と阿修羅坊は若者を見ていた。
美作守は、阿修羅坊には京極次郎右衛門高秀、本人だと言った。怪我もようやく治って、赤松家のお屋形の兄になれるのなら申し分はないと乗り気だったと言う。このまま、京極治部少輔のもとにいても芽が出そうもない。いっその事、赤松家の養子になった方が活躍する場があるかもしれないと、喜んで話に乗って来たと言う。
この男なら満更、悪くないかもしれないな、と阿修羅坊は思った。しかし、本物のように強そうには見えないし、武将になるよりは芸人にでもなった方がいいのではないか、とも思った。
阿修羅坊は京極の伜に声を掛けてみた。
「京極殿」と呼ぶと、伜は馬上から阿修羅坊の方をちらっと見ただけで、また視線を前に戻し、「何じゃ」と言った。
「傷の具合は、もうよろしいのでしょうか」と阿修羅坊は聞いた。
「心配いらん。もう大丈夫じゃ」と伜は正面を向いたまま答えた。
「そうですか。長旅になりますが、充分、お気を付け下さい」
「うむ」
名門を鼻にかけて気位が高いと見える。好かん野郎だ、と思った。
阿修羅坊は、この若者が本物の京極次郎右衛門と信じていたが、実際、次郎右衛門はすでに、この世にいない。この若者は太郎坊の偽者の次郎右衛門の、また偽者だった。
正体は阿修羅坊が思った通り、芸人だった。北野神社の辺りで男色を売っている野郎とか陰間(カゲマ)とか呼ばれている男娼だった。
美作守は昨日一日、取り締まりと称して盛り場を歩き回り、偽者を捜していた。とにかく、年の頃が二十二、三で、見目形のいい若者を捜していた。芸人の中に丁度いいのが見つかるだろう、と簡単に思っていたが、なかなか見つからなかった。夕方近くになり半ば諦め、仕方がないから、今、うちに居候している浪人者を使うかと思っていた。少々年を食っているし、品などないが仕方ないと諦めていた。そんな時、北野神社の参道に立っている若者を見つけた。野郎だという事はわかったが、こいつに鎧を着せれば立派な若武者になると、ぴんと来た。美作守は若者に声を掛け、屋敷に連れて来た。
話はすぐに決まった。美作守は若者に必要な知識を覚え込ませ、太郎坊に化けた京極次郎右衛門という役に仕立てた。京極次郎右衛門の正体が、北野神社の野郎だと知っているのは美作守と正明坊だけだった。
この隊を率いて行く堀次郎則秀などは、この若者、京極次郎右衛門というのがお屋形様の姉君、楓御料人様の御主人様だと信じ込み、この重要な任務の責任者に自分が選ばれた事に非常な名誉を感じて、一人で張り切っていた。編隊の指揮を執ったり、次郎右衛門にやたらと気を使ったり、出立前に忙しそうに走り回っていた。
阿修羅坊は出立前に伊助と会った。
「おぬしも先に帰って、国元の城下で待っていた方がいいんじゃないのか」と阿修羅坊は晴れ晴れとした顔をして言った。
「ええ。でも、もう少し、後について行きます」と伊助は答えた。
伊助は一昨日の夜、美作守が相国寺において、強そうな山伏と会ったのを見ていた。何を話していたのかはわからなかったが、美作守が何かたくらんでいる事は確かだった。その事を昨日、阿修羅坊に話すと、その山伏は正明坊に違いないと言った。そして、太郎坊に仕立てる京極の伜の事で会っているのだろうと言うだけで、別に気にもしていないようだった。しかし、伊助は気になっていた。
あの晩、伊助は、その山伏の後を付けようと思ったが見失ってしまった。まず先に、美作守が僧院から出て来た。そして、山伏が出て来るだろうと待っていたが、いつまで経っても出て来ない。おかしいと思って、僧院の中に入ってみたが誰もいなかった。山伏は別の所から出て行ったらしかった。考えて見れば、あんな破れ寺、出る所も入る所もいくらでもあった。
「何も起こらんと思うがの」と阿修羅坊は言って、心配ないと言うように笑った。美作守をすっかり信じきっているようだった。
「そうだといいんですけど‥‥‥」伊助は浮かない顔で阿修羅坊を見ながら、「その京極次郎右衛門とやらは、どんな男なんですか」と聞いた。
「どんな男と言われてものう。見た目は立派な若武者じゃのう。品があって、身分の高そうな若様という感じかのう」
「その若様は、いつ、浦上屋敷に入ったのです」
「さあなあ、昨日は見なかったのう。今朝は早くから支度をしていたようじゃから、昨日の夜にでも来たのかのう」
「わたしは昨日、夜中まで、ずっと、屋敷を見張らせていましたけど、そんな若様が入ったのを見ていないそうです」
「なに? 見ておらん」
「ええ。どこから来るにしろ、その若様は一人では来ないでしょう。何人か供を連れているはずです。そんな連中が屋敷に入って行くのは見ていないと言います」
「おかしいのう。もしかしたら、正明坊の奴が山伏にでも変装させて、ここに連れて来たのかもしれんぞ」
「ええ。山伏が三人、入って行くのは見たそうです」
「多分、それが、そうじゃ」
「しかし、その山伏は、しばらくして、三人で帰って行ったそうですよ」
「入れ代わったんじゃよ」
「それは考えられますけど、そんな風に隠す必要があるんですか」
「京極次郎右衛門を知ってる奴がおらんとも限らんじゃろう。見つかれば、楓殿の主人でない事がばれてしまう」
「成程‥‥‥しかし、今日は見られるでしょう。ばれるかも知れませんよ」
「なに、兜をかぶってしまえばわかりはせん。しかも、赤松家の兵に囲まれておれば、誰もが赤松家の若武者だと思う」
「そうですか‥‥‥」
「それよりもじゃ、偽者が城下に入ってから、どうしたらいいものかのう。偽者は楓殿のいる別所屋敷ではなく浦上屋敷に入る。そして、次の日、楓殿と対面するという事になっておる。偽者が対面のため、別所屋敷に来た時、本物と入れ代わればいいわけじゃが、果たして、偽者の方は一体、どうしたらいいものかのう」
「からくりを知ってますからね、生かしておくわけにはいかないでしょう」
「そうじゃのう。生かしておいて、京から来たのは太郎坊じゃなくて俺だなどと言い触らされたら、赤松家の信用にかかわるからのう。殺(ヤ)るしかないか‥‥‥」
「まあ、それは向こうに着いてから、太郎坊殿と相談すればいいんじゃないですか」
「そうじゃのう‥‥‥それじゃあ、わしは若様とのんびり国元に向かうわ」と言って阿修羅坊は戻って行った。
伊助は阿修羅坊のように美作守が信じられなかった。阿修羅坊の言う通り、何事もなく国元に帰れればいいが、美作守が何か、たくらんでいるような気がしてならなかった。
堀次郎の率いる騎馬武者二十騎と徒歩武者百人に守られて、偽者の京極次郎右衛門はどんよりと曇った空の下、京の都を後にした。
阿修羅坊は馬に乗り、堀次郎と並んで騎馬武者の後方にいた。
堀次郎は落ち着きのない男だった。こんな大任を任されたのは初めてなのか、ちょろちょろしていた。年の頃は太郎坊と同じ位だろうが、まったく頼りない男だった。
「頭数はいるが徒歩武者は足軽連中だし、もし、敵に襲われたら一巻の終わりじゃな」と阿修羅坊は脅かしてやった。
「大丈夫ですよ。敵なんかいませんよ。摂津の国は細川殿の領国だし、摂津の国を越えたら、もう国元です。敵なんかいませんよ」と堀次郎は言ったが、回りを見たり、後ろを見たり、おどおどしているようだった。
美作守も、何で、こんな奴に、この任務を任せたのだろう、まあ、安全な旅だから、こんな奴でも間に合うが、戦だったら使いものにならん。そうか、戦で使いものにならんから、この任務を与えたというわけか、成程、と阿修羅坊は一人で納得していた。
阿修羅坊たちの後ろには、槍をかついだ徒歩武者が列を組んで従っていた。そして、そのずっと後方に、商人姿の伊助の姿があった。
「まったく、足軽や浪人どもが徒党を組んで暴れ回りおって、今、京の都は大騒ぎじゃ。足軽や浪人だけならまだいいが、後ろに糸を引いてる大物が隠れておる。まったく始末におえんわい」美作守はそう言いながら、阿修羅坊の待つ部屋に入って来ると部屋の中を見回した。
阿修羅坊以外は誰もいなかった。
「どうしたんじゃ、奴は」
「遅すぎたんじゃ」と阿修羅坊は首を振った。「おぬしからの使いが来た時には、すでに、決闘が終わった後だったんじゃよ」
「それで?」
「二人とも死んだ」
「二人とも?」
「ああ、二人ともじゃ」
「相打ちか」
「いや、正確に言えば、松阿弥が勝った。しかし、松阿弥も太郎坊を斬った瞬間、血を吐いて倒れ、そのまま死んでしまったんじゃ」
「そうか、死んだのか‥‥‥」
阿修羅坊は美作守に二人の遺品を見せた。
松阿弥の仕込み杖、太郎坊が使った刀、そして、太郎坊の髪の毛を見せたが、美作守はろくに見ていないようだった。さっそく、次の対策を練っているようだった。
美作守は一応、太郎坊の髪を手に取って眺め、次に、松阿弥の仕込み杖を手に取り、抜いてみようとしていたが抜けなかった。
「手入れをしなかったから、くっついちまったんじゃのう」
阿修羅坊は太郎坊の刀を取って、抜こうとした。こっちの刀もくっついていた。
「そっちもか」と美作守は言った。「太郎坊も松阿弥を斬ったのか」
「ああ、肩先をちょっとな。しかし、致命傷という程じゃない」
「そうか‥‥‥死んだか」と言いながら美作守は仕込み杖を置いた。「ところで、国元の『噂』はどんなもんじゃ」
「みんな、楓殿の御亭主が生きていたと信じ込んでおる」
「そうか‥‥‥」
「みんな、楓殿の御亭主が城下に来るのを楽しみに待っておる」
「うむ。一体、その『噂』の出所はどこなのかのう」
「太郎坊じゃよ。太郎坊が自分で『噂』を広めたんじゃ」
「やはりのう。なかなか、やるもんじゃのう。おぬしの言った通り、味方にしておけば、役に立つ奴じゃったのう‥‥‥」
「国元には何と言ったんじゃ」と阿修羅坊は聞いた。
「噂通り、楓殿の御主人は生きておるとな‥‥‥太郎坊を送り込むつもりでおったんじゃが、死んでしまったのなら仕方ないのう」
「どうするんじゃ」
「今更、死んだとも言えまい。こっちの重臣たちには、今、怪我の療養中だと言ってある」
「こっちの重臣たちも楓殿の御主人が生きているという噂を知っておるのか」
「ああ、それぞれ、国元から連絡があったらしいのう」
「太郎坊の噂も大したものよのう。京にいる重臣たちも動かしたか」
「一つの噂に国元も京も振り回されておる」
「これも、志能便の術とかいうもんかのう」
「まったく、甘く見過ぎたわ」
「これから、どうするんじゃ」と阿修羅坊は聞いた。
「どうするかのう」と美作守はニヤニヤした。
「どうやら、決まったとみえるのう」と阿修羅坊は美作守の顔色を窺いながら言った。
「ほう、どうして、わかる」
「長年、付き合っておれば、その位の事、わかるわい。どうするつもりじゃ」
「まあ、ここではなんじゃから離れに行こう」
二人は太郎坊と松阿弥の遺品を持って、離れの書院へと向かった。
書院に入ると阿修羅坊は天井を見上げた。
「この上に太郎坊が隠れておったんじゃのう」
「まったくのう。この屋敷に忍び込むとは大胆不敵な奴じゃ」
美作守は遺品を文机(フヅクエ)の上に置くと、障子を閉めて腰を降ろした。
「さっきの話じゃがのう。こっちの重臣たちには楓殿の御主人は京極大膳大夫の伜、次郎右衛門高秀で、今、怪我をしていて療養中じゃ、と言ってあるんじゃ」
「京極次郎右衛門高秀? 聞いた事もないのう。そんな奴がおるのか」と阿修羅坊も腰を降ろした。
「それがおるんじゃ。正明坊の奴がな、叡山(エイザン)の山の中で、その次郎右衛門を拾ったんじゃよ。奴は本当に怪我をしておってな、今、ある所で療養しておる。もう、かなり良くなってるはずじゃ。重臣たちに楓殿の御主人の身元を聞かれてのう。まさか、本名を言うわけにもいかんしのう。そいつの事を思い出して、そう言ってしまったんじゃ。とにかく、その時は、何とか、その場を乗り切れば後は何とかなるじゃろうと思ったんじゃ。太郎坊を、そいつの弟という事にしてもいいと思ってたんじゃよ」
「ところが、太郎坊は死んだ」と阿修羅坊は言って美作守の顔を見つめた。「その男を使うつもりなのか」
「それしか、あるまい」美作守は、もう決めたという顔で頷いた。
阿修羅坊は天井を見上げ、しばらくしてから、「いくつなんじゃ、その京極の伜は」と聞いた。
「わしも、まだ会っとらんので詳しくは知らんが、二十四、五とか言っておったかのう。太郎坊とそう大して違うまい」
「二十四、五か‥‥‥二十四、五にもなっておれば妻も子もおるじゃろう」
「まあな。とにかく、重臣どもを納得させるには奴を送り込むしかあるまい。京極氏は出雲の国(島根県東部)を持っておるしのう。山名氏を挟み打ちにするのには持って来いじゃ」
「しかし、出雲の国は今、守護代の尼子刑部少輔(アマゴギョウブショウユウ)が握っておると聞いておるぞ」
「尼子か‥‥‥力はあるらしいが、まだ、京極氏に刃向かう程の力はないじゃろう」
「まあいい。その京極の伜を国元に送るとしてじゃ。楓殿と会えば、すぐに偽者とばれてしまうぞ」
「ああ、そこなんじゃ」と美作守は厳しい顔をして阿修羅を見た。「そこの所をおぬしに頼みたいんじゃ。何とか、楓殿を説得させて欲しいんじゃよ」
「どう説得させるんじゃ」
「仮にでもいい。京極の伜と一緒になって貰いたいとな」
「何じゃと! そんな事、無理に決まっておるわ」
「楓殿は御主人が死んだ事を御存じないのか」
「知らん。楓殿も御主人が城下に入って来るのを楽しみに待っておる」
「そうか‥‥‥赤松家のために、一緒になってくれと言っても無理かのう」
「無理じゃろうのう。死んだ事もわしが知らせるのか」
「頼む」
「しかしのう。楓殿に、御主人が死んだとは、とても言えんのう」
「じゃが、他にいい方法があるか」
「しかしのう‥‥‥」阿修羅坊は腕を組んで、首を振った。
「仮にでいいんじゃ。今は国元の『噂』を静めなくてはならん。播磨の国中が『噂』の結末を見守っているんじゃ。この結末を付けなければならん。とにかく、偽者でも何でも楓殿の御主人を国元に送らなければならんのじゃ。そして、その後の披露式典まで何とか夫婦でいてくれればいい。その後は離縁しても構わん。理由は何とでも付くじゃろう」
「京極氏を離縁するのか。敵を作る事になるぞ」
「今、京極氏は二つに分裂しておる。叔父と甥で争っておる。赤松家を敵に回す暇などあまい」
「そうだといいんじゃがのう」
「どうじゃ。おぬしがうまく楓殿を説得してくれんかのう。こんな事、頼めるのはおぬししかおらんのじゃ」
「国元にはどう説明するんじゃ」
「できれば、偽者という事は隠しておきたいが無理じゃろうのう。加賀守には本当の事を言った方がいいかもしれん。その辺のところは、おぬしに任せる。ただ、城下の者たちや播磨の国人たちには絶対にばれる事があってはならん」
「わかっとる」
「これが、今回の仕事の総仕上げだと思って、すまんが頼むぞ」
阿修羅坊は美作守を見ながら、仕方がないというように頷いた。「乗り掛かった舟じゃしな、やるしかないのう」
「おお、やってくれるか。すまんのう」美作守は満足そうに笑って、ふと思い出したかのように、「ところで、例の宝の方はどうした」と聞いた。
「わからん」と阿修羅坊は首を振った。
「太郎坊にも見つけられなかったのか」
「ああ、松阿弥に殺されなかったら、今頃、見つけておったかもしれんがのう」
「そうか、じゃあ、その件も引き続き頼むぞ」
「ああ、わかった」
「とにかく、明日のうちに準備をして、あさってには国元に向かうようにしよう。まあ、おぬしは、その間、のんびりしていてくれ」
そう言うと美作守は阿修羅坊を客間に案内して、また、出掛けて行った。
阿修羅坊は客間に寝そべると美作守が言った事を考えていた。
2
美女たちが黄色い声を上げて騒いでいる。
鼻の下を伸ばした阿修羅坊が美女たちに囲まれて酒を飲んでいた。
浦上美作守は阿修羅坊の今までの苦労をねぎらうため、豪華な料理と上等な酒と一流の遊女を用意して、ささやかな宴を開いてくれた。美作守自身は都の治安取り締まりに行かなきゃならんと、忙しそうに出掛けて行ったが、阿修羅坊は御機嫌だった。
振り返ると色々な事があった‥‥‥
それも、もうすぐ終わる。明後日、太郎坊の偽者を置塩城下まで連れて行き、偽者と本物をすり替えればいい事だった。ただ、偽者をどうするかが問題だった。京極氏の伜が偽者になるというのは、ちょっと始末に悪い。何とか説得して戻ってもらうか、最悪の場合は、殺して山の中に埋めてしまうしかないか、と思った。
そして、太郎坊がまだ生きていた事など、まったく知らなかったと、とぼけていればいい。松阿弥に殺されたのが替玉だったとは全然知らなかった。奴が使う『志能便の術』というのは大したもんだ、このわしまで騙しおった、と言えば、何とかなるだろうと思っていた。
美作守と打ち合わせが済んだ後、阿修羅坊は後を追って来た伊助と藤吉に会って、美作守の作戦をすべて話した。藤吉は明日の朝早く播磨に帰ると言う。太郎坊に美作守の出方を報告してくれるだろう。太郎坊はただ、偽者が城下に入って来るのを待っていればいいだけだった。
太郎坊の考えでは、美作守は身代わりを城下に送るが、楓と会うと偽者だとばれてしまうので、途中で殺させるだろうと言っていた。しかし、美作守はそんな事は一言も言わなかった。偽者を城下に入れ、楓殿と会わせ、たとえ、形だけでもいいから夫婦にして披露式典に出せと言う。よく考えて見れば、お屋形様の姉君の御亭主が何者かに殺されたとあっては体裁が悪い。体裁を重んじる美作守が、そんな事をするわけがなかった。
阿修羅坊は美女たちに囲まれて、すっかり、いい気持ちになっていた。
三人の美女はどれも阿修羅坊好みの女だった。美作守が阿修羅坊の好みを心得ていて、わざわざ揃えてくれたに違いなかった。憎い事をするわ、と阿修羅坊は美作守に感謝していた。
その頃、美作守は崩れたまま放置してある相国寺の僧院の中で、瑠璃寺の山伏、正明坊と会っていた。
「どうじゃ、この間の京極の伜、次郎右衛門高秀とやらの具合は良くなったか」と美作守は正明坊に聞いた。
「はあ? どうしたんです、そんな事、急に聞いたりして」と正明坊は怪訝(ケゲン)な顔をした。
「急に、そいつを使う事に決まった」
「使う?」
「ああ、どうしても、そいつが必要なんじゃ。どうじゃ、もう傷は治ったか」
「死にましたよ」と正明坊は言った。
「なに、死んだ?」
「ええ、五日前です」
「死んだのか」と美作守はつぶやき、舌を打ってから、「傷はそんなに深かったのか」と聞いた。
「いえ、大した事ありません。治ると思っていたんですけどね、傷口から入った毒が回ったんでしょう。朝、気が付いたら冷たくなってましたよ」
「死んじまったのか」と言いながら美作守はすぐに次の対策を練っていた。
「一体、奴をどう使うつもりだったんですか」
「いや、死んじまったんなら、しょうがない。それで、死んだ事を京極氏に伝えたのか」
「それが、治部少輔殿がどこにいるのかわからんのですよ。次郎右衛門からも渡してくれと頼まれた書状もあるんですけどね」
「という事は、次郎右衛門が死んだ事は、まだ誰も知らんのじゃな」
「そういう事になりますね」
「まあいい。さて、本題に入るか」と言って美作守は正明坊に内密の仕事を頼んだ。
その仕事とは、正明坊に野武士に化けて、ある連中を襲って欲しいというものだった。ある連中とは勿論、偽太郎坊の一行だった。
阿修羅坊には、ああは言ったものの、偽者を国元に送って、うまく行くとは美作守も思ってはいなかった。『噂』の手前、太郎坊を国元に送らなければならない。しかし、送ったら偽者だとばれてしまう。事をうまく運ぶには、途中で偽者を消さなくてはならない。誰にも怪しまれずに偽者を消すには、今、京の都で暴れ回っている野武士集団に襲わせるのが最上の策だった。赤松家にとっては、やはり、楓に亭主などいない方が良かった。これで、すべてがうまく行くと美作守は思った。
それと、阿修羅坊の問題もあった。今回の仕事で、阿修羅坊は瑠璃寺の山伏を使い、犠牲者を多く出し過ぎた。その中には瑠璃寺においても重要な山伏が何人もいた。美作守の所に、瑠璃寺から責任を取ってくれと、うるさく言って来ていた。本人はまだ知らないが、阿修羅坊は瑠璃寺から破門されていた。瑠璃寺と縁の切れた阿修羅坊は美作守にとって、この先、用のない者だった。美作守は阿修羅坊も一緒に消してしまうつもりでいた。
あまり、乗り気でなかった正明坊も、阿修羅坊を消せと言った途端に態度が変わった。阿修羅坊がいなくなれば、瑠璃寺においても格が上がるし、美作守が抱えている山伏の中でも一番という事になる。今までは阿修羅坊がいたお陰で、うまい汁をみんな、阿修羅坊に吸われてしまっていた。これからは自分がうまい汁を思う存分に吸う事ができる。張り切らずにはいられなかった。
美作守は正明坊に作戦を詳しく説明した。
明後日、阿修羅坊と楓殿の御主人に扮した偽者の一行が国元に向かって旅立つ。人数は騎馬武者二十騎に徒歩(カチ)武者百人。人数は多いが烏合(ウゴウ)の衆だ。戦闘能力はまったくと言っていい程ない。
その一行は明後日の朝、京を出て、一日目は芥川(高槻)に泊まる。二日目は武庫川の辺り、三日目は有馬を過ぎた山の中となる。四日目は播磨の国に入って加古川に泊まり、五日目に置塩城下に到着する予定だ。
一行を襲うのは山城の国や摂津の国ではまずい。赤松家の武士が野武士にやられて全滅した事が噂になったらまずい。やるのは播磨の国に入って国境近くの山の中だ。
しかし、播磨の国に入ったとしても、国人たちの間にそんな噂が広まってはまずい。噂になっても、国人たちを納得させるようでなくてはならん。そこで、おぬしは騎馬隊五十騎を率いて襲い掛かれ。人の噂というのは大袈裟になるものだ。五十騎が百騎となる。百騎もの野武士集団に襲われたらしょうがないと思わせなくてはならん。
おぬしも知っている通り、今、京では髑髏(ドクロ)党とか卍(マンジ)党とか名乗る盗賊が出没しておる。おぬしらも何とか党と名付け、阿修羅坊一行をやっつけたら、そのまま、山名の領国に入って暴れ回ってもらいたい。やがて、その噂が広まれば、楓殿の御亭主殿も、あの連中にやられたのなら仕方がないと言う事になるだろう。
美作守が話し終わると正明坊はニヤニヤした。
「なかなか、面白そうですな。わしらは野武士集団になって暴れ回ればいいんですね」
「ああ、そうじゃ。しかし、山名の領国でじゃぞ」
「わかっております。その手初めに阿修羅坊を血祭りに上げるというわけですね」
「そうじゃ。気をつけて貰いたいのは、一行の中に、堀次郎がいるんじゃが、奴だけは逃がしてくれ。城下にやられた事を知らせてもらわなけりゃならんからのう」
「堀次郎だな」
「知ってるな」
「ええ、知ってます」
「どうだ、五十騎、集められるか」
「元手は出るんでしょう」
「勿論、出す。暴れ回るのはいいが絶対に捕まるなよ」
「捕まった奴は殺しますよ」
「おお、頼むぞ」
美作守は正明坊に軍資金を渡すと外に出た。
外には満月が出ていた。
誰か、偽者を見つけなけりゃならんな、と思った。どうせ、死んで貰う奴だ、誰でもいいだろう。それと、明日、国元に早馬を飛ばそうと思った。
楓殿の御亭主、京極次郎右衛門高秀殿、十八日、騎馬武者五十騎と徒歩武者二百人に守られ出立(シュッタツ)、国元に着到予定は二十二日、との書状を持たせて。
しかし、実際に送るのは、騎馬武者二十騎に徒歩武者百人だった。
この隊を率いて行くのは赤松家年寄衆の一人、堀兵庫助秀世の嫡男、堀次郎則秀と決めていた。騎馬武者二十騎は堀次郎とその家臣、徒歩武者百人は足軽を使うつもりでいた。
あとは、立派な格好をさせた偽の太郎坊と阿修羅坊で準備完了だった。
その百二十人と二人は何も知らずに、明後日、死に向かって旅立つ事になるのだった。
3
出立の準備は完了した。
偽太郎坊、と言うより、偽の京極次郎右衛門高秀は立派な侍大将の格好をして、立派な葦毛(アシゲ)の馬に乗っていた。見るからに、気品のある貴公子然とした若者だった。
成程、これが京極の伜か、と阿修羅坊は若者を見ていた。
美作守は、阿修羅坊には京極次郎右衛門高秀、本人だと言った。怪我もようやく治って、赤松家のお屋形の兄になれるのなら申し分はないと乗り気だったと言う。このまま、京極治部少輔のもとにいても芽が出そうもない。いっその事、赤松家の養子になった方が活躍する場があるかもしれないと、喜んで話に乗って来たと言う。
この男なら満更、悪くないかもしれないな、と阿修羅坊は思った。しかし、本物のように強そうには見えないし、武将になるよりは芸人にでもなった方がいいのではないか、とも思った。
阿修羅坊は京極の伜に声を掛けてみた。
「京極殿」と呼ぶと、伜は馬上から阿修羅坊の方をちらっと見ただけで、また視線を前に戻し、「何じゃ」と言った。
「傷の具合は、もうよろしいのでしょうか」と阿修羅坊は聞いた。
「心配いらん。もう大丈夫じゃ」と伜は正面を向いたまま答えた。
「そうですか。長旅になりますが、充分、お気を付け下さい」
「うむ」
名門を鼻にかけて気位が高いと見える。好かん野郎だ、と思った。
阿修羅坊は、この若者が本物の京極次郎右衛門と信じていたが、実際、次郎右衛門はすでに、この世にいない。この若者は太郎坊の偽者の次郎右衛門の、また偽者だった。
正体は阿修羅坊が思った通り、芸人だった。北野神社の辺りで男色を売っている野郎とか陰間(カゲマ)とか呼ばれている男娼だった。
美作守は昨日一日、取り締まりと称して盛り場を歩き回り、偽者を捜していた。とにかく、年の頃が二十二、三で、見目形のいい若者を捜していた。芸人の中に丁度いいのが見つかるだろう、と簡単に思っていたが、なかなか見つからなかった。夕方近くになり半ば諦め、仕方がないから、今、うちに居候している浪人者を使うかと思っていた。少々年を食っているし、品などないが仕方ないと諦めていた。そんな時、北野神社の参道に立っている若者を見つけた。野郎だという事はわかったが、こいつに鎧を着せれば立派な若武者になると、ぴんと来た。美作守は若者に声を掛け、屋敷に連れて来た。
話はすぐに決まった。美作守は若者に必要な知識を覚え込ませ、太郎坊に化けた京極次郎右衛門という役に仕立てた。京極次郎右衛門の正体が、北野神社の野郎だと知っているのは美作守と正明坊だけだった。
この隊を率いて行く堀次郎則秀などは、この若者、京極次郎右衛門というのがお屋形様の姉君、楓御料人様の御主人様だと信じ込み、この重要な任務の責任者に自分が選ばれた事に非常な名誉を感じて、一人で張り切っていた。編隊の指揮を執ったり、次郎右衛門にやたらと気を使ったり、出立前に忙しそうに走り回っていた。
阿修羅坊は出立前に伊助と会った。
「おぬしも先に帰って、国元の城下で待っていた方がいいんじゃないのか」と阿修羅坊は晴れ晴れとした顔をして言った。
「ええ。でも、もう少し、後について行きます」と伊助は答えた。
伊助は一昨日の夜、美作守が相国寺において、強そうな山伏と会ったのを見ていた。何を話していたのかはわからなかったが、美作守が何かたくらんでいる事は確かだった。その事を昨日、阿修羅坊に話すと、その山伏は正明坊に違いないと言った。そして、太郎坊に仕立てる京極の伜の事で会っているのだろうと言うだけで、別に気にもしていないようだった。しかし、伊助は気になっていた。
あの晩、伊助は、その山伏の後を付けようと思ったが見失ってしまった。まず先に、美作守が僧院から出て来た。そして、山伏が出て来るだろうと待っていたが、いつまで経っても出て来ない。おかしいと思って、僧院の中に入ってみたが誰もいなかった。山伏は別の所から出て行ったらしかった。考えて見れば、あんな破れ寺、出る所も入る所もいくらでもあった。
「何も起こらんと思うがの」と阿修羅坊は言って、心配ないと言うように笑った。美作守をすっかり信じきっているようだった。
「そうだといいんですけど‥‥‥」伊助は浮かない顔で阿修羅坊を見ながら、「その京極次郎右衛門とやらは、どんな男なんですか」と聞いた。
「どんな男と言われてものう。見た目は立派な若武者じゃのう。品があって、身分の高そうな若様という感じかのう」
「その若様は、いつ、浦上屋敷に入ったのです」
「さあなあ、昨日は見なかったのう。今朝は早くから支度をしていたようじゃから、昨日の夜にでも来たのかのう」
「わたしは昨日、夜中まで、ずっと、屋敷を見張らせていましたけど、そんな若様が入ったのを見ていないそうです」
「なに? 見ておらん」
「ええ。どこから来るにしろ、その若様は一人では来ないでしょう。何人か供を連れているはずです。そんな連中が屋敷に入って行くのは見ていないと言います」
「おかしいのう。もしかしたら、正明坊の奴が山伏にでも変装させて、ここに連れて来たのかもしれんぞ」
「ええ。山伏が三人、入って行くのは見たそうです」
「多分、それが、そうじゃ」
「しかし、その山伏は、しばらくして、三人で帰って行ったそうですよ」
「入れ代わったんじゃよ」
「それは考えられますけど、そんな風に隠す必要があるんですか」
「京極次郎右衛門を知ってる奴がおらんとも限らんじゃろう。見つかれば、楓殿の主人でない事がばれてしまう」
「成程‥‥‥しかし、今日は見られるでしょう。ばれるかも知れませんよ」
「なに、兜をかぶってしまえばわかりはせん。しかも、赤松家の兵に囲まれておれば、誰もが赤松家の若武者だと思う」
「そうですか‥‥‥」
「それよりもじゃ、偽者が城下に入ってから、どうしたらいいものかのう。偽者は楓殿のいる別所屋敷ではなく浦上屋敷に入る。そして、次の日、楓殿と対面するという事になっておる。偽者が対面のため、別所屋敷に来た時、本物と入れ代わればいいわけじゃが、果たして、偽者の方は一体、どうしたらいいものかのう」
「からくりを知ってますからね、生かしておくわけにはいかないでしょう」
「そうじゃのう。生かしておいて、京から来たのは太郎坊じゃなくて俺だなどと言い触らされたら、赤松家の信用にかかわるからのう。殺(ヤ)るしかないか‥‥‥」
「まあ、それは向こうに着いてから、太郎坊殿と相談すればいいんじゃないですか」
「そうじゃのう‥‥‥それじゃあ、わしは若様とのんびり国元に向かうわ」と言って阿修羅坊は戻って行った。
伊助は阿修羅坊のように美作守が信じられなかった。阿修羅坊の言う通り、何事もなく国元に帰れればいいが、美作守が何か、たくらんでいるような気がしてならなかった。
堀次郎の率いる騎馬武者二十騎と徒歩武者百人に守られて、偽者の京極次郎右衛門はどんよりと曇った空の下、京の都を後にした。
阿修羅坊は馬に乗り、堀次郎と並んで騎馬武者の後方にいた。
堀次郎は落ち着きのない男だった。こんな大任を任されたのは初めてなのか、ちょろちょろしていた。年の頃は太郎坊と同じ位だろうが、まったく頼りない男だった。
「頭数はいるが徒歩武者は足軽連中だし、もし、敵に襲われたら一巻の終わりじゃな」と阿修羅坊は脅かしてやった。
「大丈夫ですよ。敵なんかいませんよ。摂津の国は細川殿の領国だし、摂津の国を越えたら、もう国元です。敵なんかいませんよ」と堀次郎は言ったが、回りを見たり、後ろを見たり、おどおどしているようだった。
美作守も、何で、こんな奴に、この任務を任せたのだろう、まあ、安全な旅だから、こんな奴でも間に合うが、戦だったら使いものにならん。そうか、戦で使いものにならんから、この任務を与えたというわけか、成程、と阿修羅坊は一人で納得していた。
阿修羅坊たちの後ろには、槍をかついだ徒歩武者が列を組んで従っていた。そして、そのずっと後方に、商人姿の伊助の姿があった。
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